<書評>『私の沖縄問題』 根底に人権 身近な問題に


社会
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『私の沖縄問題』部落解放・人権研究所編 解放出版社・1760円

 「沖縄問題」と言われると、「沖縄に米軍基地が集中しているために、沖縄に集中して起こる事件・事故・環境被害など」に言及したいなら、それは「特定の地域に過重な負担を押し付けるのではない安全保障政策はどのように可能なのか」という日本全体の課題であると言う意味で「日本問題」と言うべきだ、と返すことにしている。

 だが、本書は不平等な安全保障の負担を沖縄差別の問題としてだけ議論するのではなく、「沖縄」との関わりの中で「私」が遭遇するさまざまな課題を、より幅広く、より身近な「問題」として描くことに成功している。

 編者である「部落解放・人権研究所」は、いわゆる部落差別をはじめとする差別撤廃を目的とした調査、研究、啓発に取り組んでいる研究所であり、本書は、研究所が発行する月刊誌『ヒューマンライツ』に2018年から22年まで連載されたエッセー「私の沖縄問題」34本を1冊にまとめたものだ。

 『ヒューマンライツ』という雑誌タイトルからも想像がつくように、ここで「私」が向き合うことを選んだ「沖縄問題」の根底には「人権」という共通のテーマが流れている。読み進めるうちに、本書の三通りの読み方に気がつく。その一つは、「沖縄」との関わりの中で「私」が遭遇する人権問題が描かれることで、読者は「沖縄問題」のさまざまな側面に気付かされるという、本書の編者が意図したであろう読み方だ。

 もう一つは、ウチナーンチュではない「外」からやって来た者としての「私」の「沖縄」との関わりを考える読み方だ。筆者の何人かは、そうした自分の立ち位置について反すうし、自分なりの「沖縄」との距離の取り方を見いだし、それを読者と共有してくれている。

 三つ目に、「沖縄問題」に取り組む中で、「人権」を行使する主体としての「私」の活動を紹介することで、読み手に対してエンパワーメントの機会を示してくれている、との読み方だ。「日本問題」を「沖縄問題」にさせてしまわないために。

(星野英一・琉球大名誉教授)


 部落解放・人権研究所 部落差別をはじめとする差別撤廃を目的とした「調査研究」「教育啓発」「人材育成」に取り組む一般社団法人。今回の執筆者は沖縄県内外の33人・1団体。