<書評>『竹富島と共に歩む 阿佐伊孫良遺稿集』 「うつぐみ」の思想の実相


社会
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『竹富島と共に歩む 阿佐伊孫良遺稿集』発行者・阿佐伊イチ子・2750円

 本書は、「竹富島のパッション」と称すべき、阿佐伊孫良氏の遺稿集である。氏は、長年東京で郷友会や県人会の活動に尽力した。1997年、竹富島に帰郷後は、公民館長やNPO法人理事として、竹富島の文化継承活動に貢献した。常に竹富島の文化の発信の中心にいた人物だった。

 ゆえに、2014年、氏が病に倒れ、不帰の人となったことは、竹富島に大きな衝撃をもたらした。竹富島の支柱を失ったように感じたのではないだろうか。島を愛し、島と共に歩んだ77年の人生だった。

 氏の著述は多岐にわたる。実直で誠実な人柄がなす詳細な記録と考察は、「竹富島と共に歩む」の一語に尽きる。氏にとって、島の生活の一コマ一コマは、かけがえのないものであった。その生活の中に生きる「うつぐみ」の心をすくいあげることが執筆の本意であったと思われる。竹富島を愛し、その文化を共有する全国の人々は、本書の各所に「竹富島と共に歩む」氏の姿を見るだろう。そして「うつぐみ」の思想の実相を知るはずだ。

 氏は「竹富島の過去・現在・未来」項において、三つの提言をした。その一つは、島の観光業に対するものである。竹富公民館を主体とする竹富島観光協同組合の発足によって、新しい共同体意識の醸成を呼びかけている。さらに「竹富島憲章」を生かした観光を目指すことを強調した。他者に頼るような観光ではなく、自立を目指したところに氏の明哲な考えが光る。

 狩俣恵一氏は、あとがきで「阿佐伊さんは傍観者でいられない人だった。竹富島のさまざまな出来事も自分のこととして行動した」と述べる。リゾート問題や、祭り・古謡・芸能など、伝統文化継承の問題等々、島の課題は山積する。そんな中、氏は、常に「自分事」として問題に向き合ってきた。地域の問題を「自分事」と捉えることができるか否かが共生社会の鍵であろう。地域社会と共に歩むということは、傍観者ではなく、当事者として生きることにほかならないのだ。本書に学び、いま一度、地域で生きることの意味を考えたい。

(田場裕規・沖縄国際大教授)


 あさい・そんりょう 1937年竹富島生まれ。東京竹富郷友会会長、東京沖縄県人会事務局長、竹富公民館館長など歴任。論文に「竹富島の種子取を考える」など。2014年逝去。