<書評>『琉球共和国憲法の喚起力』 「憲法感覚」、反復帰が憲法案貫く


社会
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『琉球共和国憲法の喚起力』仲宗根勇、仲里効編 未來社・3080円

 復帰運動の中心であった復帰協が、1960年の結成当初から日本国憲法の沖縄への適用を掲げたのは周知の事実である。さかのぼれば沖縄で憲法を巡る議論は、早くも50年代初頭の群島議会で交わされている。そこでは、沖縄で新たに制定されるべき憲法より日本国憲法が劣るならば、ふさわしい形にそれを書き換えればよいとさえ言われていた。憲法不在にもかかわらず、憲法的理念を感覚的につかんでいたからこその議論であろう。大田昌秀はそのような感覚を「憲法感覚」と呼んだ。本書所収「琉球共和国憲法F私(試)案」の著者、仲宗根勇は反復帰論者の一人だが、しかしその憲法案は、復帰の思想に流入している「憲法感覚」をラジカルに引き継いでいるようにも見える。

 仲宗根憲法案は前文、第一~九条、注釈というユニークな構成となっている。「国民」ならぬ「困民」を主人公に据える前文や一条、裁判の公用語を日本語と琉球語とする六条などは、国会爆竹事件など沖縄近現代史と深く結びついている。しかし最大の特徴は、「地球連合政府」が樹立した暁には、この憲法が失効するとしたことだろう。憲法に過渡的性格を与えることで、この憲法が適用される国家をも解体の過程に置く。ここに過激なまでの「憲法感覚」の現れを見てもよい。

 しかも実のところ「地球連合政府」さえ解体の下にある。「琉球共和国」は主として四つの州に分けられ、それぞれに強い自治権が与えられている。個々人はどの州に属してもいいし、離脱も自由である。州の分割・統合も「困民」たちの判断で可能とされる(三~五条)。ひいては「共和国」の「困民」になることも離脱も自由である(九条)。人々の集合体をミクロな方向に分割する運動が条文化されているのである。そこからすると単一マクロな「連合政府」は元から不安定化し、精神的な領土「ニライカナイ」(二条)の相貌(そうぼう)さえ帯びる。よりよい理念を追求する「憲法感覚」だけでなく、国家全廃を構想する反復帰の思想が憲法案を貫いているのがわかる。川満憲法案と双璧をなす沖縄の思想の達成であろう。

(呉世宗(オセジョン)・大学教員)


 なかそね・いさむ 1941年、うるま市生まれ。東京大卒。元裁判官、評論家。 なかざと・いさお 1947年、南大東島生まれ。法政大卒。雑誌「EDGE」編集長を経て、映像・文化批評家。