「門中(むんちゅう)、地域がまさに基礎票だ」。北部の中核・名護市。市議選では毎回、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題の賛否が注目されるが、当選を目指すある男性は「政策よりも地縁・血縁だ」と断じる。
有権者の話題の中心も「出身地や親戚同士がかぶっていないか」。票を読むため、新聞の告別式広告の親類情報に目を光らせる人も少なくない。
区長経験者が議員を務める事例もある。「行事にどれほど顔を出し、貢献してきたか」。“地域の顔役”であることが得票に直結すると男性は力説する。
「政策じゃない。親戚の数だよ」。沖縄本島南部の離島で立候補予定の男性は、ためらいなく言い切る。本島に比べ人口が少なく、島のほとんどの人が顔見知りだ。地縁・血縁の深さが当落を分ける鍵になる。
過疎化や農漁業などの活性化、地域振興、インフラ整備など課題は山積みだ。それでも選挙戦で政策論争が交わされることはほとんどない。
人間関係が密なため、政策論争から発展し得る「もめ事」を避ける空気もある。「昔からそういうならわしだ」。男性は意に介さない。
こうした状況に一石を投じようと取り組む若者もいる。琉球大学理学部4年の城間亮太さんと、同大医学部大学院1年の伊佐さんだ。西原町民の2人は、2021年に開かれた町議会での質疑や議事録などを公開した「非公式西原町議会アプリ」を製作。町議会の情報を広く提供した。
きっかけは20年7月の町議会補欠選挙。立候補者の政策に関する情報がほとんどなく、伊佐さんは投票所で見付けた資料に3分だけ目を通して投票先を決めた。「じっくり情報を吟味したかった」との思いが動機だ。
城間さんは「デジタルをうまく使いこなせない世代もいる。まずは自治体が選挙公報を全戸配布して立候補者の情報を届けるのが第一だ」とした上で、「SNSでの選挙活動も解禁された。これからはデジタルも立候補者にとって有力な情報発信の手段だ。財力がなくても発信できるという点では、選挙活動の公平性にもつながるのではないか」と話す。
「有権者に配布される投票用紙にQRコードを付け、アクセスすれば全立候補者の情報を見られるといった新しい工夫も必要ではないか」。伊佐さんは有権者が投票する権利を最大限に生かせる仕組み作りを提言する。
西原町が実施した町民講座でアプリ製作に関する講師も務めた2人は「(アプリを活用できる)人材を増やすことで、有権者の政治参加の意識も高まるのではないか」と期待を込めた。
(’22統一地方選取材班)
9月11日に県内24市町村議会で統一地方選が実施される。地方議会にどのような動きがあるのか。議会の今を伝え、住民参加の取り組みを考える。