<書評>『戦争準備と住民監視』 「戦争する国づくり」に警鐘


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『戦争準備と住民監視 ~重要施設等周辺住民監視規制法(土地規制法)の廃止を求める~』仲松正人著 あけぼの出版・600円

 法律の題名は、やたら長いものが少なくない。面倒だし第一わかりにくい。それで略称が使われるようになる。問題となっている法律の略称は「土地利用規制法」。建ぺい率や市街化調整区域などの言葉を連想するが、とんでもない誤解だ。正式な名称は、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」だ。その内容は、基地周辺住民が「(基地や国境離島等の)機能阻害行為をするおそれ」がないか、「思想・信条を含むあらゆる個人情報を調査・収集し監視することを許容する」法律だという。そこで著者は、略称として「重要施設等周辺住民監視規制法」を提案する。

 著者は、この法律を先駆的に研究した第一人者である。本書を読むとこの法律がいかに問題が多いかがわかる。そもそも衆参両院で併せてわずか26時間しか審議されていないということには驚いた。国民の権利を規制する法律であるにもかかわらず、内容が不明確なところが多い。内閣総理大臣に丸投げしているのだ。それを反映し、両院とも16項目の付帯決議がある。付帯決議は与党も賛成しているので、与党ですら問題があることを自覚しているのだ、と著者は述べる。

 著者は、この法律の本質は、「戦争する国づくり」法体系の一環とする。たしかに、安倍政権から菅政権の間に、安保関連法制、特定秘密保護法、共謀罪の導入と治安立法が着々と制定されてきたことを多くの読者が記憶している。この土地利用規制法もその延長線上にあるのだが、「沖縄でもこの法律の存在が忘れられてしまっている」ことに警鐘を鳴らす。

 どうすればいいか。著者は「成立した法律は廃止できる」と言うが、国会で立憲民主党、共産党等が多数を占める必要があり当面現実的でない。著者の提案で注目すべきは、地方自治体への期待である。長や議会は何をすることができるか、「法律の実効性を阻む手段」について具体的には本書を見てほしい。

(仲地博・沖縄大名誉教授)


 なかまつ・まさと 那覇市出身、弁護士。辺野古ドローン規制法対策弁護団団長を務める。自由法曹団、日本労働弁護団活動に携わる。