知事選が告示された8月25日午前9時すぎ、再選に挑む玉城デニー氏(62)はうるま市の勝連城で御嶽(ウタキ)に手を合わせていた。「県民のために働く役目をくださいますように」。生まれ育った与勝地域を眼下に望み、強く願った。
午前10時、第一声はうるま市屋慶名の海岸で発した。眼前には8月に急逝した新里米吉選対本部長の出身地・平安座島が浮かぶ。目の前の海岸で子どもの頃にカニを取ったり釣りをしたりして遊んだ思い出に触れ、「古里の歴史・伝統・文化を大切にしたい思いは今につながる」と強調。地元への思いを胸に、再選に向けて走り出した。
「誰一人取り残すことのない沖縄らしい優しい社会」。掲げてきたキャッチフレーズの原点も幼少期にある。米兵の父と伊江島出身の母との間に生まれ、「ハーフだ」といじめに遭うこともあった。「デニーはデニーさ。気にする必要はないよ」と、ありのままの自分を肯定してくれる同級生の言葉が支えだった。
1期目の県政運営では首里城焼失や豚熱、新型コロナに軽石漂着など「災害級」と表現される事態に次々と直面した。「政治に心の支えを求めるならば、命がけで支え、守っていきたい」。故・翁長雄志氏から受け継いだ県政を守る中で、危機にあっても揺るがぬ信念を持ち続けた。
親しみやすさから、知事に就いてからも街角で「デニー」と声を掛けられたり、記念撮影を求められたりすることも少なくない。そこでの会話から県民の暮らし向きを聞く中で、若い世代の現状などを知った。学卒後に非正規職となり、奨学金の返済に追われる現状などが身につまされ、「話を聞いた以上、やらねばならぬ」とリーダーとしての決意を新たにしてきた。
再選を目指す今回の選挙は18歳から20代前半までの「ファーストライフステージ」の支援を打ち出した。「新しいセーフティーネットが必要」と街頭で訴えを続け、遊説の合間も医療従事者や子どもまで声に耳を傾ける。
選挙戦が中盤に差し掛かる中、「社会状況、選挙情勢は一晩でひっくり返るのが選挙の常」と油断はない。「沖縄が平和な島であり続けるためにどうすべきか、もう一度訴える必要がある」と県内各地を駆け巡る。
(’22知事選取材班・塚崎昇平)
11日投開票の県知事選は残り2週間を切った。支持拡大に向けて駆け回る下地幹郎氏(61)、佐喜真淳氏(58)、玉城デニー氏(62)の3候補の人柄や選挙運動の様子を担当記者が描く。