<書評>『復帰50年 沖縄を読む 沖縄世はどこへ』 50人のさまざまな視点


社会
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『復帰50年 沖縄を読む 沖縄世はどこへ』東アジア共同体研究所 琉球・沖縄センター編 ボーダーインク・1540円

 本土復帰50年をどのように見るか、どう語るか、視点や論点は実に多様だ。しかし、目まぐるしく移り変わるこのご時世に生き、常に情報過多の社会で暮らすなかで、沖縄の本土復帰50年という「話題」にどっしり腰を据えて向き合う人はどれだけいるのだろうか。社会にある程度関心を持っている人でさえ、沖縄関連の書籍を1、2冊読んでなんとなく本土復帰50年という「話題」への視点や語り口を見つけた気になっているという人は多いのではないだろうか。しかし、そこにはきっと、抜け落ちた視点や論点が存在している。

 極端な例になるが、沖縄の基地問題に関しては専門家レベルの知識を持っていても、貧困の問題には無関心でほぼ知識がない、という人もいる。もちろん、それが悪いことだとは思わない。個人の興味関心の持ち方は違うし、それによって情報収集の傾向が違ってくるのは当然だ。ただ、自分の持ち合わせていない「視点」に出会うことで、新たな興味関心が湧き、情報収集のベクトルが変容することもあるだろう。

 本書は、本土復帰50年というテーマについて、50人の識者がさまざまな視点を提示している。本書を読むことでこれまで自分の中に無かった視点に出会うことができる。私がハッとさせられたのは、金賢玉氏が「埋もれた朝鮮人犠牲者に光を」というテーマで書いた文章である。太平洋戦争において、残虐極まる地上戦が行われた沖縄において、沖縄の人々がさらされた悲劇や困難には光が当てられるが、強制連行され地上戦の地獄に巻き込まれた朝鮮人犠牲者に光を当てる機会は少ない。巻き込んだ側である自分自身が、この件について無頓着ではいけないと強く思わされた。

 本書は新たな視点に出会わせてくれる「出会い系書籍」であり、自分の興味関心に沿う話題にマッチングしてくれる「マッチング書籍」である。本書でぜひすてきな出会いを。

 (せやろがいおじさん/榎森耕助・お笑い芸人/YouTuber)


 東アジア共同体研究所 鳩山友紀夫(由紀夫)元首相が政界引退後2013年設立。琉球・沖縄センターは基地問題、沖縄の未来構築の議論、政策提言などを行っている。年刊ジャーナル「沖縄を平和の要石に」を発行。

 


東アジア共同体研究所 琉球・沖縄センター編
A5判 160頁

¥1,540(税込)