「自分を好きになる」とは 前田比呂也(中学美術教師・元中学校長)<未来へいっぽにほ>


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前田比呂也(中学美術教師・元中学長)

 私は先生方に、中学生には「自分を好きになる」「繋(つな)がっていることに気づく」「居場所は自分でつくる」という三つの力を身に付けさせてと話してきた。そして、先生方も、と。

 「自分を好きになる」。これが最も難しい。世の中は否定的な言葉や態度に満ちている。他者と比較し数値化することを強いられ、成功の基準さえ画一化される。学校でも生徒の活躍の多様性は排除されがちだ。

 「繋がっていることに気づく」。人間は弱い生物だから、虫や魚のように放っておいても育ちはしない。今ここに命があるということは、誰かに大切にされてきたという証しなのだ。

 「居場所は自分でつくる」。緊急避難は必要だから逃げてもいい。ただ青い鳥を探し転々としても居場所は見つからない。答えは大概、今いる場所にある。

 私は今回が最終回となるが、現在、息子も琉球新報文化欄にコラムを書いていて、彼の方が人気のようだ。老後と呼ばれる時期にさしかかり、振り返ると、絵描きになりたいがどうにもならず、自分に上手に言い訳しながら過ごしてきた。最近、美術史研究者の娘が新しい工房を構想し、私と息子も参加した。私の作品や概念をも、彼らが再解釈、再構成し、次々に加工していく。作品が生まれ変わり新たな価値を持つ。若い頃の夢はなにひとつかなわなかったと感じていたが、彼らとのコラボを通して、私はいまだ夢の途中なのではないかと思えるようになった。こんなこともあるのかと、子どもたちに心から感謝する日々だ。

 「自分を好きになる」「繋がっていることに気づく」「居場所は自分でつくる」とはこういうことなのかもしれない。いくつになっても教えられることばかりだ。