【深掘り】事業執行の不透明感、出だしの遅れ…大宜味村長選、現職敗退の背景


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大宜味村長選の出陣式で、支持者と共に拳を突き上げる友寄景善氏(中央)=6日、大宜味村上原

 【大宜味】11日投開票の大宜味村長選は、新人の友寄景善氏(67)が、3期目を目指した現職の宮城功光氏(71)、新人の安里重和氏(62)を退け初当選した。現職と、現村政に反対する新人2人による三つどもえ。宮城氏は30代から村議を務めた経験と人脈、血縁の多さから「有利」とみられたが、及ばなかった。友寄氏に勝利をもたらした背景を探った。

「共倒れ」

 元々革新地盤の大宜味村では、8年続く保守村政から革新村政への回帰を願う声があった。1982年以来40年にわたり塩屋以南の「下方」からの村長選出が続き、上原以北の「上方」出身村長の待望論もあった。上原出身の友寄氏が昨年12月に出馬を決め、友寄氏より一足早く出馬表明した塩屋出身の宮城氏との「一騎打ち」の構図となった。

 6月、安里氏が出馬の意向を固めたことで、状況が変わり、「新人が共倒れする」との見方が生まれた。友寄氏は危機感を抱き、玉城デニー知事とのセット戦術を前面に打ち出した。

批判

 一方、選挙戦の焦点となった「事業執行の不透明感」を象徴する塩屋小跡地のエビ養殖問題は、村議会が5月に百条委員会を発足。8月には現村政に反対する村民が主催した勉強会に村民約50人が集まるなど、関心の高まりがみられた。

 告示前後には、村議選の候補者が、エビ養殖事業などに関するビラを配布し現村政に疑問を投げ掛けた。

票の流れ

 村長選は村議選とのセット戦術が随所で展開された。革新系や反現村政の村議候補4人の総得票804票は、友寄氏の得票数と一致する。一方、宮城氏と足並みをそろえた現職5人と元職1人の総得票は964票で、宮城氏の772票とは開きがある。宮城氏の票が革新層を押さえた友寄氏や351票を獲得した安里氏に流れたとみられる。

 友寄氏は「宮城陣営の動きが見えたのは、総決起大会直前の8月下旬。遅かった。大会に参加した村民は8年前の村長選よりずっと少なかった」と振り返る。勝因について、宮城氏の強引な村政運営に対する村民の不信感を挙げ「村民の『脱・宮城村政』の意志が予想以上に強かった。安里氏との共倒れを懸念したが、逆にそれが危機感として広まり、私に票が集まった」と分析した。

 ある村民は「村長の独断で事業が動く状況に、村の将来を心配する人は多かった。しかし村内で宮城氏の影響力は絶大。声を上げられなかった」と打ち明ける。「宮城陣営が街頭演説などで、友寄氏や村議選の野党候補らを個人攻撃したことも、女性中心に反発を招き、友寄氏に票が流れた」とも指摘した。

 宮城陣営の関係者は「コロナ禍もあり出だしが遅れたのは確かだ。総決起大会の集まりも明らかに少なかった。しかし選挙戦を通じ、支持の拡大を感じていた。もう少し時間があれば、事業執行の適正さも伝えられたのだが」と肩を落とした。

 (岩切美穂)