<書評>『平和で豊かな沖縄をもとめて 「復帰50年」を問う』 実現への道筋描き出す


社会
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『平和で豊かな沖縄をもとめて 「復帰50年」を問う』おきなわ住民自治研究所編 自治体研究社・1320円

 評者には、2歳の娘がいる。飛行機が好きらしく、よく眺めているが、時々異様に怖がることがあった。戦闘機が怖かったのだと気づいたのは、最近のことである。沖縄で生まれ育った評者はそのごう音に慣らされてしまっていたが、娘はそれが持つ暴力を本能的に嗅ぎ取っていたのだろう。評者の、「平和で豊かな沖縄」を願う原点である。

 50年前の沖縄の人びとが「復帰」に込めた願いも、「平和で豊かな沖縄」であった。残念ながらいまだにかなっていないその願いを、いかにつなげていくのか。本書は、「復帰後50年」の沖縄が置かれてきた状況を整理し、今後の発展可能性を展望することを通して、「平和で豊かな沖縄」を実現する道筋を描き出す。

 本書では、10人の執筆者が、自然環境、水汚染、社会保障、貧困、地方自治、憲法、平和、経済、財政などの課題に挑む。復帰運動がもとめた「沖縄のこころ」を軸とした「復帰後50年」の歴史とその後の展望(宮本憲一)をはじめとして、米軍基地に由来する沖縄の環境問題の特質(桜井国俊)、PFAS汚染の現状とそれに立ち向かうための方策(砂川かおり)、憲法で定められた「生存権」と沖縄の社会福祉の現状と課題(石川満)、保護者の雇用・労働環境と児童福祉政策によってこどもの貧困が継続される過程(山野良一)、憲法・地方自治法からみた辺野古訴訟の問題(白藤博行)、戦後77年余りの沖縄と憲法の関係(小林武)、歴史的視点をふまえた沖縄経済の発展可能性(照屋義実)、沖縄の雇用・労働環境の形成過程とその問題点(島袋隆志)、基地押しつけ財政措置に頼らない自治体財政のあり方(川瀬光義)が論じられる。巻末には、2022年5月に沖縄県が策定した「新建議書」が収録される。

 本書が取り上げる課題が幅広いのは、今日の沖縄が直面している困難の大きさの表れでもある。その困難に慣らされることなく、一人一人が持つ「平和で豊かな沖縄」への願いをつないでいきたい。

 (小濱武・沖縄国際大講師)


 おきなわ住民自治研究所 沖縄に平和・環境・地方自治を確立することを目指して2017年に設立。毎月のニュース発行や自治体学校の開催などで課題を共有、解決に向けた学習活動などを展開。