国葬の一般弔問客の「沖縄」へのまなざし…安倍政権がもたらしたもの <記者ノート>


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 沖縄にとって安倍晋三元首相は功罪相半ばする存在だった。憲政史上最長の政権を築いた安倍氏がもたらした「本土」と「沖縄」の分断を、国葬儀(国葬)の一般の弔問客への取材を通じても痛感させられた。

安里洋輔

途切れることのない参列者の長い列。千葉県から参加したという40代の女性に声を掛けた。「琉球新報の記者だ」と名乗ると、いぶかしげな視線を向け、辺野古新基地建設反対を掲げた玉城デニー氏が当選した知事選を「どう思うか」と問いかけてきた。「県民の判断だ」と答えると、女性は「でも」と前置きし「マスコミしか信じない高齢者の票で当選した」と畳みかけ「だって沖縄の人たちは下だから」と吐露した。何が「下」なのか明言しなかったが、偏見のまなざしをはっきりと感じた。怒りを抑え、先の大戦を知る彼らが日本で唯一の地上戦を経験した人たちであること、ロシアに侵攻されるウクライナと同じ状況だったことを説明すると、女性はようやく聞く耳を持ったようだった。

 大阪府から訪れた別の女性(64)は離島の自然にほれ込み、30年近く通う「沖縄ファン」だという。「沖縄には基地が必要」と断言するが、主要な情報源はインターネット。女性の主張には「米軍普天間飛行場は何もない場所に作られた」といったうその言説も交じっていた。

 取材は2時間を超え、いつしか沖縄の立場を説明する者と、沖縄に凝り固まった視点を向け続ける者が対話する場になっていた。

 思えば彼女らが口にした沖縄を日本から切り捨て、都合よく認知する言説が激しさを増したのは、安倍政権下の約10年間と重なる。異なる立場にある者同士が歩み寄ることのない状況を生み出した政権の集大成が、国葬の是非を巡って「反対派」と「賛成派」が罵声を飛ばし合う現場の風景だった。もう二度とあんな分断はごめんだ。炎天下の武道館前で、取材とは呼べない対話を続けている最中、そんなことを思い続けた。