<書評>『沖縄エッセイスト・クラブ作品集39』 書くということは人生


社会
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『沖縄エッセイスト・クラブ作品集39』沖縄エッセイスト・クラブ著 新星出版・1500円

 沖縄エッセイスト・クラブ39冊目の作品集。30人の会員によるエッセーが収められている。巻末にある執筆者紹介を見ると、医師と元教員が多くを占めることがわかる。印象に残った作品をいくつか紹介する。

 「ペンネーム」(久里しえ)は、ジャズピアノを習いに通う中、「クリシェ」というコード進行に惹(ひ)かれ、その言葉の意味を知った時のショックを描く。その思いがずっと心に引っかかったまま過ごす中、あえて「クリシェ」をもじったペンネームを自身につける。とあるテレビ番組により「クリシェ」の新たな魅力に出会うという、音楽と言葉が好きな者にとって引き込まれるエッセー。

 「『できていること』を見る」(神保しげみ)の、スクールカウンセラーとして働く筆者が生徒にも自分に対しても「できていること」を見るよう生きる様に励まされる。

 「千数百キロの彼方から」(南ふう)は、「やるべきこと」ではなく「やりたいこと」を優先にした北部ドライブを描く。軽石について書くことにより、2021年秋その時ならではの記録となると同時に、自身の人生と重ねることにより奥行きのある作品に。

 「ああ、それは勝手というものです」(諸見里杉子)は仏壇問題をテーマにしたエッセー。〈ここまで書いてハッとした。「財産は仏壇を継ぐ長男に」という言葉に。実質仏壇を継いでいるのはその配偶者ではないの?〉という気付きが印象的だ。

 「それぞれの旅立ち」(根舛セツ子)は、夫を見送るまでの過程を丁寧に描く。かけがえのない家族という存在、最後にタイトルの「それぞれの」がじんわり心に響く。

 「ウエストサイズ物語」(城所望)は、一般的に「コロナ太り」の人が多い中、コロナ禍にダイエットに成功する過程について、ダジャレを交えながら描く注目作。

 30人30色のエッセー群から、エッセーとは、書くということは、人生とは、といったことを考えさせられる1冊である。

 (トーマ・ヒロコ 詩人)


 沖縄エッセイスト・クラブ 1983年以降、年に1回、合同でエッセイ集を発刊。「作品集39」は会員30人が寄稿している。まえがきには「行間から作者の個性や興味関心、そして人物像まで思い浮かぶようになる」と記されている。

 


沖縄エッセイスト・クラブ編著
四六判 308頁

¥1,500(税込)