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退職後もアカデミズムに対する情熱がいささかも冷めず、論考はますます円熟味を帯びている。本書はベトナム経済の論考を中心に、沖縄の社会経済に関する分析、核に関する論述に至るまで多岐にわたる大著となっている。
比較体制論が専門の筆者はベトナム経済のドイモイ政策に焦点を当て、政策過程、経済の変遷、IMFや世界銀行の政策そして現状に至るまで、緻密に分析している。中国経済は高成長から「質」を追求する「新状態」への転換を標榜(ひょうぼう)しているが、民主主義的な意思決定、市場の公正性の課題がさらなる発展のために求められている。
そのような中、ポスト中国として、アジアで最も期待されているのがベトナムである。「統合しても融合しない」と断言してTPPへ加盟し、通商の改善のみならず国営企業の改革も行い「最も得をした国」と評される。その独自でしたたかな戦略は注目に値する。
筆者は沖縄・ベトナム友好協会の会長であり、ドンアインやフエなどに沖縄文化経済交流センターを設置して、懸け橋として尽力している。ベトナムレポートの章は、足で稼いだ生の情報にあふれ、ベトナム展開を考えている企業に有益な情報となろう。
沖縄の視座からのベトナム論は興味深い。アジアの文化との共通性と特異性が論客と議論され、一方的な受容ではなく、コアの文化を守りつつ、変容した過程説明は示唆に富む。最近、ホーチミン近郊のビンズン省で日本企業が都市開発を行い、「リトル沖縄」のコンセプトで販売促進をしている事例を現地視察した。
西洋文化ではなく、「明るい」「やさしい」沖縄の文化が受け入れられやすいという。急成長の中で、人々の価値観などの文化の激変に対し、物質主義ではない、独自の文化を基調に発展するということをベトナムの人が望んでいるとも解釈できる。
単なる経済論ではなく、体制論、文化論からベトナムを論じた好書であり、現在の沖縄の厳しい状況の打開策に示唆を与えている。
(富川盛武・沖縄国際大学教授)
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かまた・たかし 1941年大阪市生まれ。66年、立命館大大学院経済学研究科修士課程修了。85年、沖縄国際大商経学部教授。2008年、同大名誉教授。沖縄・ベトナム友好協会会長。