今年1月、沖縄署を数百人の若者が取り囲んだ騒動の後、ツイッター上には「沖縄は猿の巣窟」などと中傷コメントが並んだ。9月の知事選で、辺野古新基地建設反対を訴えた玉城デニー知事が再選を決めると「沖縄土人」「中国の属国になることを目指すのか」などの言葉が飛び交った。ネット上のヘイトの刃は、なぜか沖縄に向き続ける。
名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前の抗議日数を示す掲示板について、インターネット掲示板「2ちゃんねる」開設者のひろゆき(西村博之)さんが「0日にした方がよくない?」とツイッターに書き込んだ。数十万の「いいね」とともに「情報弱者のじじばばが発狂」などの中傷も集まった。
ひろゆきさんはその後、別の動画で「沖縄の人って文法通りしゃべれない」と差別発言をしたり、普天間飛行場のある場所について「何もなかった所」とデマを拡散したりした。
ひろゆきさんの度重なる発言について、編集局内でも「枝葉の問題をあげつらう姿勢に乗っかるのか」との声もあった。それでも「(反対運動に対する)ひどいあざ笑いで、影響力も大きい」として記事にした。
本紙は続報で歴史的経緯を基にデマを否定した。識者に取材し、ひろゆきさんの「文法」発言は方言札などの歴史から差別と取られることを指摘した。
ネット番組では、新基地建設問題自体の議論を求める沖縄側出演者を「事実じゃなくて自分の思いを伝えたい人」と切り捨てた。ひろゆきさんの言動を記事にするたびに、売名に加担しているような気さえした。
それでも記事にしたのは、ネット上で大きな影響力を持つひろゆきさんの言動が、新基地建設抗議活動への認識をゆがめたり、沖縄へのヘイトや差別を助長したりする恐れがあったからだ。取材に基づいた歴史的経緯や差別発言の問題点を沖縄側から指摘していくことで、少しでもその流れを押しとどめたかった。
ひろゆきさんの言動に関して、抗議運動参加者や識者に話を聞く中で、沖縄に対する「無理解」や「無知」という言葉が共通して聞かれた。不確かな情報が氾濫するネット社会で、取材に基づく正確な情報を届けること。沖縄に対するゆがんだ認識を正していくには、それしかない。
(塚崎昇平)
(おわり)