絆をつなぐ努力を ネットワーク拡大に力 江州幸治氏(沖大・沖国大特別研究員)〈続・海を越えた絆 沖縄の国際交流〉2


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空港での出迎えを喜ぶ海外県系人ら=2016年10月、那覇空港

 ウチナーンチュ大会まで残りわずかとなった。ここに来て個人参加も増えてきた。私の属する沖縄アメリカ協会も11月1日のランチ歓迎会、沖縄ハワイ協会も同4日夜歓迎会を開く予定である。各国の友人たちの連絡も増えてきた。ハワイの親戚も県人会チャーター便で来沖予定だ。本記事掲載時には、国内外各地から多くの人たちが来るだろう。海外からの帰省者は母国に帰った気分ではなかろうか。
 

再構築の糸口
 

 しかし、せっかく帰国しても会いたい人と連絡が取れなければどうだろう。以前は県庁や市町村に行けば情報が得られた。今は役所に行ってもつなぎのキーマンが少ない。知り合いやキーマンを探そうにも個人情報だからと教えてもらえない。絆をつなぐ糸が切れる。

 逆に県内の各国関係団体が県人会員の連絡先を尋ねても個人情報で教えられないと断られる。そこでも糸は切れ、絆も失ってしまう。ネットワーク拡大どころか絆の消滅縮小の危機である。

 一方、役所などで交流を担当した職員も部署が変われば関係が途切れ、海外出張など世話になってもその時だけの事例も多いのではないか。お互いの信頼あっての絆で、大切に育んでもらいたい。その中で、県立図書館を中心に移住者のデータベースができたのは心強い。移住者のルーツ探しは、彼らのアイデンティティーにとり大変重要で、関係者の御労苦を多としたい。同様に、来られた方々が会いたい人たちの情報を収集しつなぐインフォメーションが喫緊に必要である。

 ところで沖縄県には、県費による留学生、研修員制度がある。現在は南北米各国からの県人会などの推薦による移住者子弟留学生が多く、行政などで選出されるアジア留学生はかなり減少した。

 私は県で学んだ留学生らの民間大使などの任用はネットワーク継承拡大に大きな力となると思う。沖縄に誇りを持ち、双方の架け橋となりたいと願う彼らは沖縄のために労力を惜しまないであろう。実際、各国県人会では県費留学生OBらが役員や中心メンバーとして活躍している。

 その一人で、ブエノスアイレス大学で教鞭(きょうべん)を執(と)り、アルゼンチン県人会で活躍するエルネスト宮城(ミヤシロ)から、11月1日開催の琉球大学のシンポジウムでパネリストとして参加すると連絡があった。奥さまも和歌山県人会会長をされているとのこと。今から再会が楽しみである。

留学生らの活用
 

 私は昨年3月まで沖縄県の交流推進課に勤務していた。留学生・研修員経験者は優れた人材がおり、県人会やウチナーンチュネットワークに貢献できるので民間大使候補にと県の担当者らにリストを提供したが、どうなったであろうか。アジア各国も含め優秀な人材が埋もれている。

 実はこれら県の留学生、研修員たちの関係文書が県庁に見当たらない。当時事業委託先の県人材育成財団も訪ねたが、資料は倉庫だと言う。委託先が変わった今、データはいずこへ? 県の一元管理が望ましい。

 また一昨年、海外から来た国際交流員らと翻訳などのまとめ役をしていた時、ペルー県人会から「慰霊の日」追悼のドキュメンタリー映像が送られてきた。ペルー県人会の若者らが制作したもので、戦後薄れていく戦争の記憶を、若い海外ウチナーンチュが思いを馳(は)せて振り返った素晴らしい内容だ。沖縄で学んだペルー県人会小波津カリナ文化部長が中心となった。沖縄の心を紡ぎ継承する若い彼らは各県人会で貢献できる。

 最後に、県人会の中には民間大使は70歳以上が要件であると聞き大変驚いた。当初は、民間大使は功労賞的な意味合いもあったと思うが、むしろ、行動力のある若者や実績のある中堅の人たちも民間大使として登用し県人会やウチナーンチュネットワークに活用してほしいと強く希望する。円滑な世代交代が今後継承の鍵である。

(沖縄大学・沖縄国際大学特別研究員、早稲田大学大学院博士後期課程修了)