〈129〉地域外科医療のこれから 公衆衛生の視点で連携


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 東京の大学を卒業し、父の故郷である沖縄で就職しました。約18年、地域外科医として働いています。

 地域医療の中でも地域外科医療はあまり聞き慣れないと思います。地域の外科医は、外科疾患をできるだけその地域内で診療し、そこで治療(手術)できるか、地域外の専門医に任せるべきかを総合的に判断します。

 高齢化や低所得地域、過疎地などでその必要性が高く、恩師が勤める東京葛飾区の病院でも同じような地域外科の知識が必要とのことです。

 外科教育の主流はより専門に特化した外科医になることであり、総合的に診る外科医は少なく、地域で働く外科医は不足しています。問題解決のためには「public health(公衆衛生)」の視点が必要と感じ、一念発起してオーストラリアのシドニー大に留学し公衆衛生を学びました。

 その後オックスフォード大で、途上国の外科治療のレベル向上を目的として欧米の大学で始まった「Global surgery(グローバルサージェリー)」を学びました。これは人やモノ、資金の乏しい地域で外科医療を行き渡らせるためにはどうすべきか、外科医だけでなく他職種連携の中でどのように格差を埋めていくか、という学際的な考えを意味し、まさに先進国でも都市部と僻地(へきち)の関係に当てはまります。外科領域の公衆衛生が必要とされ始めたのは実は2015年のことで、非常に歴史が浅いです。

 グローバルサージェリーの考え方を用いて宮古島で一つのモデルを作成しました。「ネガティブスパイラルモデル」と名づけ、今後持続可能な地域外科医療を推し進めるため、長く地域で働くこと、長期的目標を作成することなどの問題解決のきっかけになればと考えています。これまで見て見ぬふりをされてきた分野「neglected stepchild(ネグレクトされた養子)」と言われる外科の公衆衛生を地域外科医療に結びつけ、今後も発信していきたいと思います。

(浅野志麻、県立宮古病院 消化器外科)