沖縄の心 孫らに継承 タムリンさん親子、思い語る 江州幸治氏(沖大・沖国大特別研究員)〈続・海を越えた絆 沖縄の国際交流〉3


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米女優のタムリン富田さん(中央)、母親の富田・具志堅朝子さん(左)と筆者=10月31日、那覇市のハイアットリージェンシー那覇沖縄(大城直也撮影)

 ここ数年気になる女性がいた。しかし、現実の話ではなくテレビの中の話である。それはアメリカの人気テレビ番組「GOOD Doctor」という番組だ。自閉症ではあるが、優れた頭脳を持つショーンという医師と周りの人々が聖ポナペント病院で繰り広げるヒューマンドラマである。その中にアジア系の病院理事長がいた。きりっとした聡明(そうめい)そうな女性で、アオキという名の日系人である。それを演じている女性がタムリン・トミタであった。

 タムリン演ずるアオキは主人公の医師ショーンを擁護し、ショーンの父親代わりのグラスマン病院長の良き理解者である。調べて驚いた。日系アメリカ人の父とフィリピン系日本人の母の下、嘉手納基地内の病院で生まれている。母は富田・具志堅朝子という名である。しかもタムリンは「ベストキッド(米国ではカラテキッド)2」ヒロインのクミコであった。当時彼女はまだ二十過ぎ。

 その後競争の厳しいハリウッドの中で彼女は30年以上多くの映画や人気番組に出演している。

空手との深い縁
 

 しかも、彼女は何とウチナー民間大使だという。沖縄に愛と誇りを持ちウチナーンチュ大会にも3回参加していた。私は沖縄アメリカ協会に属しており、ぜひともアメリカ県人会の歓迎会であいさつしてもらいたいと思い消息を尋ねたが、来沖情報も連絡先も不明で諦めた頃、突然連絡が入った。タムリンが明朝に沖縄入りするので、迎えてほしいとのまさかの展開だ。事実は小説より奇なりである。

 出迎え後、私から情報を聞き「空手の日」記念演武祭関係者も交えホテルで滞在日程を調整した。

 タムリンは、現在もネットフリックスの人気番組の「コブラ会」という空手ドラマに出演する。かつてのヒット映画「カラテキッド」のその後を展開したテレビドラマで、人気となりシーズン3まで継続している。空手関係者は、空手と縁の深い彼女に、本場の空手演武をぜひ見ていただき、米国各地で空手の素晴らしさを伝えてもらいたいと観覧を要望したところ快く引き受けてくれた。

 率直なタムリンさんに沖縄の心を感じた私は、琉球新報に連載している「続海を越えた絆」に彼女やお母さんの話を書きたいと伝えると、何のためらいもなく応じてくれた。

 琉球新報も私と別にインタビューしたいと伝えると私的な家族旅行にも拘(かかわ)らず快諾してくれた。

チムグクル
 

 インタビュー当日、彼女はお母さんと4人の甥(おい)と姪(めい)を連れてきた。祖母の話を孫たちに聞かせるためだ。彼女の母朝子さんはもうすぐ86歳。自分の幼少が貧しく、お願いをして人の井戸から水をくんだ話、金銭を稼ぐため何カ所かのクラブで歌手として歌ったという苦労話をインタビューに答える形で孫たちに伝えた。孫たちは初めて祖母の苦労を聞いたとのことであった。タムリンさんは生後5カ月の時渡米したという。

 タムリンさんはその後成長してロサンジェルスの日系2世のコンテストで一位になったことがきっかけで女優の道を歩んだ。若い頃にはあまり感じなかったが、次第に沖縄の歴史文化の理解やウチナーンチュとしての自覚が強まってきたという。今回のインタビューに母親にも語ってもらい、母の経験や当時の沖縄の話を孫の甥や姪へと伝えつなぐことが、沖縄のこころを継承し、若い彼らのアイデンティティの一部となると彼女は考えたのである。彼女がUCLAで日本や英国の歴史を学んだと聞きなるほどと納得した。

 彼女の様にハリウッドの第一線で活躍する人が与える影響は大きい。彼女はロサンジェルスの「リトル東京」を中心とする日系社会にも貢献し表彰されている。しかし、彼女は言う。私は日本人であるが、まずウチナーンチュであり、チムグクルを伝えていきたいと。母の故郷に戻り、自己のアイデンティティを確認し、甥や姪の若い孫世代へ沖縄の心を伝える。これこそが、ウチナーンチュ大会の真髄(しんずい)ではなかろうか。

(沖縄大学・沖縄国際大学特別研究員、早稲田大学大学院博士後期課程修了)