<書評>『東アジアの米軍再編 在韓米軍の戦後史』 日米韓同盟の「冷厳たる事実」


社会
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『東アジアの米軍再編 在韓米軍の戦後史』我部政明、豊田祐基子著 吉川弘文館・2970円

 本書は、朝鮮半島情勢の変化と米韓日関係について、軍事を軸とし、政治・外交の側面から考える視点を提供することを目的として出版された。内容は、I部が主に韓国軍の成立以降、1971年までの米韓日関係の歴史的な分析(我部)、II部が米韓相互防衛条約が成立した1953年から2021年に至る米韓関係を軸に、米軍再編による在韓米軍の再配置の政治過程に着目した分析(豊田)となっている。評者自身も研究の過程で在沖・在日・在韓米軍基地の連動性に関心を持ち、基地群の比較や連関に着目した共同研究を昨年から開始した。その中で、在韓米軍に関する文献が日本に少ないことに問題を感じ、在韓米軍の基地運営や基地隣接地域に対する政策を扱った韓国人の共同研究者の著作の翻訳を春から始めた。その矢先に本書が出版され、絶好の参考文献になるのではないかと期待して読んだ。

 読んでみて、本の主題が米軍再編であるため、評者が知りたかった韓国社会と米軍の関係よりも、この地域を眺める米国の視点に焦点が当てられていることが分かったが、これまでの研究でほとんど扱われてこなかった日米韓3カ国の軍事的な関係性を、米国の公文書に基づいて実証的に明らかにした点で、本書の意義は非常に大きい。また、本書では、「米国が有事の際に国益を犠牲にしても同盟相手国のために軍事的行動を取るわけではないという冷厳たる事実」も明らかにされている。一方で、翻訳中の論文が対象としている1945~71年にかけての在韓米軍基地の隣接地域の変遷を重ねて考えると、安全保障上の利益を優先する大多数の国民の支持のもと、基地が位置する特定の地域の人々に犠牲を強いつつ米軍のプレゼンスが成り立ってきたという、日韓に共通する問題点も見えてきた。

 東アジアにおける軍事的緊張の高まりが喧伝(けんでん)される中、本書で明らかにされた米国の視点を共有しつつも、特定の地域に犠牲を強いず、「有事」に至らないよう、地域間の相互理解や信頼を深める下からの努力が必要ではないかと、いっそう考えさせられた。

(成田千尋・立命館大助教)


 がべ・まさあき 1955年本部町生まれ、沖縄対外問題研究会代表・琉球大名誉教授。著書に「沖縄返還とは何だったのか」「戦後日米関係と安全保障」など。

 とよだ・ゆきこ 1972年東京都生まれ、ロイター通信日本支局長。著書に「日米安保と事前協議制度」「沖縄を世界軍縮の拠点に」など。