インクルーシブ教育と共生社会 下條満代(琉球大学教育学部教授)<未来へいっぽにほ>


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下條 満代(琉球大学教育学部教授)

 皆さんは、インクルーシブ教育という言葉を聞いたことがありますか。日本では「障害のある子もない子も適切な合理的配慮の提供により、同じ教室で共に学ぶことのできる教育(文部科学省、2012)」とされているが、ユネスコのインクルージョンへのガイドライン(2005)では、インクルーシブな教育を受けることはすべての子ども達にとっての人権だとし、「多様な子どもたち(排除されやすい子どもたちを含む)の教育を受ける権利を地域の学校で保障するために、教育システムそのものを改革していくプロセス」と、より広い定義をしている。

 それを踏まえて、我が国での現状を考察してみたい。今年9月、国連の障害者権利委員会から日本政府に勧告が出された。勧告では「分離教育」の中止と文部科学省が今年4月に全国の教育委員会に発出した「通常学級で学ぶ時間を制限する通知」の撤回が要請された。しかし、文科相は分離教育の中止については「考えていない」と述べ、通知を撤回しない方針を強調した。

 日本はこれまで障害のある子どもは特別支援学校・学級など、別の場所で別の教育を受けることを前提とした教育システムを構築してきた。通常の教育から分離されて育った子どもたちは、大人になり地域コミュニティーの一員となるとき、人間関係の未構築などの課題から、日常的な理解や助け合いなどを受けることが難しくなってしまう。

 国連の勧告にあるように、すべての子どもたちにインクルーシブ教育の権利を保障することは、多様な人々が共に暮らすことのできるインクルーシブな社会を構築することにつながるのだと考える。