病に強い真珠養殖へ アコヤガイ改良に期待 OISTなどがゲノム解読新手法


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アコヤガイ(ミキモト、ミキモト真珠研究所提供)

 沖縄科学技術大学院大学(OIST、恩納村)などの共同研究チームはこのほど、真珠の養殖に用いられるアコヤガイについて、極めて精度が高い全遺伝子情報(ゲノム)を染色体別に再構築することに成功した。父と母それぞれから受け継いだ染色体と比較し特定の染色体では免疫に関わる多くの遺伝子に違いがあることが判明。異なる遺伝子が存在することで、多くの種類の病原体に対応できると考えられ、病気に強いアコヤガイの改良など真珠養殖の持続的発展に期待が掛かる。

 研究にはOISTのほかにミキモト真珠研究所や水産研究・教育機構水産技術研究所などが参画している。論文は10日付で英科学誌「DNAリサーチ」で発表された。

 有性生殖を行う動物は両親からそれぞれ1セットずつ「ハプロタイプ」というゲノム情報を受け継ぐ。従来ゲノム情報を解読する際には両親由来の二つのハプロタイプを統合するが、野生動物などでは両者の遺伝情報に多数の変異があるため、今回は統合せず最新技術を用いて二つのゲノムを別々に再構築する、軟体動物では世界初となる手法を採用した。

 アコヤガイには14対28本の染色体があるが、ゲノムを再構築してペアとなる遺伝情報を比較すると9番目の染色体に遺伝子構成が大きく異なる領域が見つかった。この領域には病原体など異物認識に関わると推定される遺伝子が多く存在しており、今後の軟体動物の免疫研究において重要な発見と考えられるという。

 また、近親交配を3世代に渡って行ったところ、遺伝的多様性が顕著に低下した。過度な近交がアコヤガイの生体防御の力を弱める恐れがあることも明らかになった。

 OISTマリンゲノミックスユニット・スタッフサイエンティストの竹内猛氏は「ハプロタイプ別にゲノム解読と手法を確立したことが大きなポイントだ」と強調。研究成果がアコヤガイ以外の養殖産業や畜産業などに対しても問題提起になるとの考えを示した。

 アコヤガイは日本の真珠養殖にとって不可欠だが、近年は病気や赤潮などによって生産量は減少しているという。ミキモト真珠研究所の永井清仁シニアフェローは「生物をゲノムを通して理解することは、産業の持続的な発展においてとても重要なことだ」と語り、真珠養殖振興へ技術改善を図る必要性を指摘した。 (小波津智也)