【全文】玉城知事の意見陳述<辺野古不承認訴訟・沖縄県の主張と国の主張>


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県が国土交通相の「関与」取り消しを求める訴訟に臨む県、国の弁護団ら=1日、福岡高裁那覇支部(代表撮影)

[1] 沖縄県知事の玉城デニーでございます。本日は、意見陳述の機会を与えていただき、ありがとうございます。

[2] 私は、本件変更承認申請について、昨年11月不承認処分をしました。その理由の一つに埋立必要性の問題を挙げました。本件埋立事業は、普天間飛行場の危険性の除去を早期に確実に行うことを目的としており、その必要性のために行われるものです。

 普天間飛行場の早期の危険性除去を実現することは、全県民的な意思であると理解しています。

 ではここで言う「早期」とは何年ぐらいのことを言うのでしょうか。これはとても曖昧な表現です。しかし、この曖昧な表現について、沖縄防衛局は、本件出願時に工期「5年」という明確な数字をもって承認申請を行いました。「早期」とはこの5年という数字が一つの目安になることは間違いないと考えています。

 しかし、この5年という設定は、実は間違いでした。当初の埋立承認から6年余りが経過してなされた変更承認申請において、今般の設計概要変更が承認されたとしてもそれから、軟弱地盤の改良工事などに9年余りかかるというのです。

 この地盤改良工事は技術的にも前例のないような工事であり、本当に9年でできるのか不確実なものとなっております。

 そして今、被告は、埋立必要性については、本件承認時に審査し、その必要性を認めたのであるから、本件変更承認の審査に当たっては、埋立必要性については、そもそも審査対象ではないと主張しています。しかしそれは必要な審査を避けることを狙いとするかのような主張で到底受け容れ難いものです。いったん承認されてしまえば、何年かかろうがその必要性に変わりはないという国の主張は、その必要性の重要な要素となった目的を見失っていると言わざるを得ません。私は、本件埋立事業が承認された際に、沖縄防衛局が、普天間飛行場の危険性が早期に除去できる、それは具体的には工期が5年であるとした説明は極めて重いものと考えています。

 そこで、この点についてご理解いただくために、今一度沖縄の基地の現状をご報告させていただきます。

 先の大戦において、沖縄県は、我が国で唯一の住民を巻き込んだ地上戦の場となり、沖縄県民約10万人を含む20万人余の多くの尊い命が失われ、緑豊かな島々は焦土と化しました。その焦土の跡には、広大な米軍基地が建設されました。普天間飛行場もその一つです。

 本土復帰後も、沖縄には多くの米軍基地が日米安全保障条約に基づく提供施設・区域として引き継がれることとなりました。もとより普天間飛行場もそのまま存置されました。本土では米軍基地の整理縮小が進みましたが、逆に、沖縄県の日本全体に占める米軍専用施設の負担割合はむしろ大きくなっていきました。

 さらに言えば、沖縄の基地負担は、米軍だけでなく、自衛隊による負担も大きいのです。

 2016年には、航空自衛隊那覇基地で第9航空団が新たに編成され、F15戦闘機がこれまでの倍の40機となりました。

 沖縄県は、日米安全保障体制や自衛隊の必要性を理解する立場です。しかしながら、沖縄県の基地負担の異常な現状に鑑みれば、沖縄における自衛隊の機能を増加させるのであれば、その分の米軍基地の負担軽減があってしかるべきです。

 このように、沖縄の基地負担の軽減については、米軍と自衛隊を併せて考える必要があること、沖縄県民の民意に即した対応が行われる必要があることなどから、沖縄県は、日米両政府に沖縄県を加えた新たな協議の場を設けることを求めているところであり、昨年は、政府に対し、県民の目に見える形で米軍基地の整理・縮小を確実に行うため、当面は在日米軍専用施設面積の50%以下を目標とすることも併せて要望したところです。

 沖縄県民はこれまで基地となる土地を自ら提供したことはありません。そして、辺野古新基地建設に反対する民意は、去る9月に実施された知事選挙を含めこれまで3回の県知事選挙や19年2月の県民投票で、ゆるぎない形で明確に示されています。辺野古埋立てに絞った県民投票では、投票総数の71・7%という圧倒的多数の辺野古埋立てに反対する民意が示されたのです。

 さらに、沖縄では、基地があるがゆえに様々な事件・事故も多発していることはご存じのことと思います。1995年9月に、沖縄県の北部で発生した、米軍人複数人による少女暴行事件は未だ記憶に新しいところです。3人の海兵隊員が、女子小学生を拉致し、暴行を加えるという、痛ましい事件でした。一人の少女の安全さえ守ることができないもどかしさと怒りが沖縄県全土を覆いました。

 沖縄県の基地は、早期に整理縮小されなければならない。改めて、沖縄県だけでなく、日本政府も決断を迫られることになりました。そのような矢先、2004年には、沖縄国際大学構内に普天間基地所属の大型輸送ヘリコプターが訓練中にコントロールを失い墜落、炎上するという事故が発生しました。民間人に負傷者は出ませんでしたが、1959年に発生した宮森小学校への米軍ジェット機の墜落による大惨事を想起させるもので、大学だけではなく、沖縄全体が恐怖に震えました。

 普天間基地は世界で最も危険な基地なのです。早急にその危険性が除去されなければなりません。政府にもそれを喫緊の課題ととらえていただいています。

 沖縄県内の基地の整理縮小の声、そして、普天間飛行場の早期の移設の必要性という歴史的な流れの中で、本件埋立事業は承認されました。そのときに工期「5年」と示された事実は、極めて重いものです。それを今になって、軟弱地盤が見つかったから、これから先にさらに9年以上かかるという説明で、私たち沖縄県民が納得しなければならないのでしょうか。

 私は、本件埋立事業における「埋立必要性」の判断に当たっては、「普天間飛行場の早期の危険性除去」が重要な判断要素になっていると思慮致しますが、その極めて重要な要件を満たさないと判断しました。このような私の判断に間違いがあったものとは考えられません。裁判所には是非ご理解をいただきたいと思います。

[3] 次に技術的な点について、お話させていただきます。すでにご存じのように、本件埋立地域の大浦湾側の海底は広大かつ深い地点まで軟弱地盤が存在していることが明らかになりました。軟弱地盤のままでは、埋立工事ができず、地盤改良をすることが必要となります。地盤改良をした後の地盤が、埋め立て工事に耐えうるだけの地盤となること、埋立後の土地利用に耐えうるものであることは、埋め立て工事を進める上で、極めて重要なことです。その設計については、専門的な計算をして、行われますが、どうしても解せない点があるのです。

 そのひとつがB―27地点についてボーリング調査をしていないということです。

 この地点は、軟弱地盤の深さが90メートルにも及んでいるにも関わらず、地盤改良が深さ70メートルまでしか行われず、未改良地盤が残される箇所です。ですから、この地点の調査をしないまま設計を行うことは、設計そのものに不安要素を残すことになります。そこで、そのようなことで大丈夫なのか、地盤の安全性は保たれるのかについて、審査に当たって質問させていただきました。しかし、沖縄防衛局の回答は、B―27地点は似たような別の地点の地層と同じであると推定されるから、B―27地点の調査は不要だというのです。

 今回、設計概要変更の申請をするにあたって、沖縄防衛局は大浦湾側において、61本ものボーリング調査をしたとのことです。なぜ、これだけの数のボーリング調査をしながら、最深部であるB―27地点の調査を外すのか、疑問は拭えません。

 私は、きちんとこの地点の調査をしていただかないと、安心できませんと指摘させていただきましたが、費用の無駄であるというようなことで断られている次第です。本件埋立事業は当初予算2300億円といわれていたのが、今回の設計概要変更で9000億円以上に膨れ上がりました。このような莫大な予算増加の中で、わずか一本のボーリング調査費用を「費用の無駄」と言われても納得いくはずがありません。

 他の地点のデータからB―27地点の地盤の推定をするのではなく、直接その地点の調査をしてくださいと言っているのです。その地点の調査がなされないままの設計では安全への不安は払拭できないのです。

 本訴訟では、その他にも、技術的な問題や環境への問題等、本件変更承認申請の問題点を多数指摘させていただきました。

 沖縄県の辺野古・大浦湾一帯は、世界的に見ても生物や地形の多様性が高く、この海域には、国指定天然記念物のジュゴンをはじめウミガメ類などの絶滅危惧種262種を含む、5300種以上の生物が生息しており、ここ十数年の間にも多くの希少種等が発見されています。また、沖縄島周辺でも大規模な海草藻場や、遺伝的に特異なチリビシのアオサンゴ群集、サンゴ礫が付着して成長する鍾乳洞があるなど、貴重な自然が多く残され、世界的な海洋学者が率いる環境NGOミッション・ブルーにより、世界的に重要な海として「ホープスポット」に登録されました。

 このような貴重な自然環境に、本件変更承認申請によるサンド・コンパクション・パイル工法による地盤改良では、約1万6千本もの砂杭を打設することとなっており、海底地盤が最大約14メートルの高さまで盛り上がるなど環境への影響が甚大であることに加え、地盤改良に伴って新たに盛り上がる箇所については、急激に深くなる斜面部に位置し、特異な生息環境が存在する可能性があり、工事は周辺の様々な生物に甚大な影響を与え得ることから、地盤が盛り上がる箇所の調査が必要であるとこれまで繰り返し指摘してきましたが、当該箇所の調査は実施されておりません。

 さらに、辺野古新基地建設が、貴重な生物多様性を失わせ、かけがえのない生物の存在を脅かすなど甚大な影響を及ぼしていることはあまりにも明らかで、生物種の数が他の国内世界自然遺産地域を上回る辺野古・大浦湾海域の豊かな自然を子や孫に残すことはわれわれの重大な責任であります。

 私自身、日米安保体制とその持つ一定の抑止力、米軍のプレゼンスについては、一定の理解を持つ者です。しかし、もはや、普天間飛行場の移設先としては、適切ではないことが明確になった、この辺野古に、これまで国内で経験したことがないような深さの軟弱地盤を改良し、最深部には未調査の部分と地盤未改良部が存することとなり、安全に対する不安を払拭できないまま埋め立て工事を進めることに一体どれだけの合理性があるのでしょうか。

 私は、沖縄県民も、日本政府も共通の認識となっている普天間飛行場の危険性の早期の除去という観点から、今回の設計概要変更を不承認とした私の判断に間違いなかったものと確信しています。裁判所におかれましても、この点十分にご審議いただき、本件指示を取り消す判決をお願いする次第です。

[4] 最後に、本件争訟に行審法52条の拘束力が及ばないことについて述べます。

 憲法92条にいう「地方自治の本旨」は、一般に、地方公共団体が自律権を有すること、すなわち中央政府とは異なる地方公共団体を統治団体とし、「団体自治」及び「住民自治」を制度的に保障したのは、民主的正当性を持つ地方公共団体の国に対する自律権を保護することが、地域住民の基本的人権の保障に資するからにほかなりません。

 そして、このような地方自治の本旨に沿った制度とするため、1999年の地方分権改革により、従来、上級下級の関係にあった国と地方公共団体の関係が対等化されたことに加え、国が地方公共団体に対してなしうる関与は、必要最小限度のものでなければならないこととされ、地方公共団体に関わる法令の規定は、地方自治の本旨に基づいて解釈・運用しなければならないこととされました。

 私の不承認処分については、これを取り消す旨の裁決がある訳ですが、この訴訟では、団体自治、住民自治という地方自治の本旨に立ち返って、大臣の行った裁決に、拘束されることなく、この問題の原点に戻って、審理がなされるべきであり、またそうなされるものと確信しております。

[5] 結びに、裁判所におかれましては、我が国の憲法が司法に託した「法の番人」としての矜持と責任の下、憲法の保障する地方自治の本旨や地方自治法の趣旨を踏まえた、公平・中立な判断をされるよう希望いたします。
 以上