【全文】沖縄県側弁護人の意見陳述<辺野古不承認訴訟・沖縄県の主張と国の主張>


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第1回口頭弁論に臨む原告側=1日、福岡高裁那覇支部(代表撮影)

[1] はじめに

 原告訴訟代理人からは、原告主張のうち、2点に絞って、弁論の要旨を述べる。

 1点目は、本件裁決の拘束力と本件訴訟における主張制限との関わりであり、2点目は、本件における1号要件、2号要件の判断枠組みである。

[2] 本件裁決の拘束力と本件訴訟における主張制限との関わり

 被告は、本件変更不承認処分を取り消した裁決の拘束力により、本件訴訟において、本件変更不承認処分と同じ理由を原告が主張することは許されない旨主張する。

 しかし、もとより、拘束力は、その内容として、そのような主張制限を生じさせるものではなく、また、裁決が確定した時点において生じる効力と解されるため、被告の主張に理由はない。

 仮に、裁決時に主張制限を生じさせる効力を持つとしても、以下の3点から、本件訴訟にその効力が及ぶことはないと解すべきである。

 行審法は基本的には上級下級関係を前提とする法制度であり、審査庁が処分庁ないし上級庁ではない場合は、裁決において処分を変更し、申請に対して一定の処分をすべき旨を命じ、あるいは一定の処分をすることなどはできない。

 一方で、地自法上の関与は、地方公共団体の事務の処理に関して、全国的な統一性、広範的な調整、行政事務の適正な執行の確保を図る等の行政目的を実現するための制度であり、私人の権利救済を目的とするものではない。

 また、地方自治の本旨を実現した地方分権改革により、国と地方公共団体は対等独立とされ、関与は法定され、必要最小限度であることが要求され、関与を巡る紛争の解決手続により、関与の適法性が担保されることとなったが、関与制度が、地方自治の本旨に適合的に解釈されなければならないことは言うまでもない。

 ところが、本件のように、関与から除外されている裁決の拘束力を及ぼすことにより是正の指示の要件、つまり、法定受託事務の違法性についての司法審査を排除できることとなれば、行審法から見れば、上級行政庁以外の審査庁に行審法の明文を超えて指揮監督権限を付与するに等しく、地自法から見れば、適法性が担保されない裁決等以外の関与を認めるに等しい。

 このような権限の連結を各法が予定していないことは明らかであり、裁決の拘束力は本件訴訟には及ばない。

 また、仮に、各法が権限連結を予定しており、拘束力が本件訴訟に及ぶというのであれば、裁決は是正の指示の要件判断を代替し、是正の指示と結合して一定の行政目的達成のための手段となることになる。

 そして、是正の指示の要件判断について司法審査を受ける手続保障が一切地方公共団体に与えられないことになれば、地方自治の本旨に悖ることは明らかであるから、このような場合には、違法性の承継が認められ、本件訴訟において裁決の適法性を争うことができるというべきである。

 また、仮に制度として違法性の承継が肯定されないとしても、本件以前の争訟や本件訴訟の経緯に照らせば、国という行政主体が、事業者としての地位、審査庁としての地位、関与庁としての地位を都度使い分けて、各地位単独では行使できない権限を行使してきたことは明らかであるところ、本件裁決及び是正の指示の権限行使は、権限を不当に連結した濫用的なものと言わざるを得ない。少なくともかかる不当な目的に用いられる限度で、裁決の違法性が是正の指示の違法性を導くものとして、本件訴訟において裁決の適法性を争うことができる。

[3] 本件における1号要件、2号要件の判断枠組み

 次に、本件是正の指示の違法性の判断枠組みについて述べる。

 本件の審理対象は是正の指示の違法事由であり、本件是正の指示は、本件変更承認申請に対して変更承認処分をせよとのものである。

 したがって、本件においては、変更承認処分をしない、という法定受託事務の処理の適法性が審査されることとなる。

 最高裁2016年12月20日判決・民集70巻9号2281ページが判示するとおり、法4条1項各号の要件は、埋立承認処分が裁量的な判断であることを前提に、最小限の要件を定めたものであり、1号要件、2号要件充足に関する知事の判断は、その判断が事実の基礎を欠いたり社会通念に照らし明らかに妥当性を欠いたりするものである場合に初めて、裁量逸脱・濫用が認められ、違法とされる。

 本件においても、各要件不充足の判断について、かかる事情があると言えるかどうかが審査されなければならない。ここでは、本件変更承認申請に対して変更承認処分をしない理由の中でも、B―27地点における力学的試験を実施しないこと、安定性照査に際して調整係数を一律に1・10とした理由が明らかでないことから、災害防止要件充足が確認できないとした判断についての審査のあり方について、具体的に取り上げる。

 災害防止要件について、沖縄県は審査基準を設けており、本件では、具体的には、審査事項⑸として、「埋立地の護岸の構造が、例えば、少なくとも海岸護岸築造基準に適合している等、災害防止に十分配慮されているか」と、審査事項⑹として、「埋立区域の場所の選定、埋立土砂の選定・海底地盤又は埋立地の地盤改良等の工事方法の選定等に関して、埋立地をその用途に従って利用するのに適した地盤となるよう災害防止につき十分配慮しているか」、という2点が問題となっている。

 ここで、審査事項⑸にいうところの「海岸護岸築造基準」が、港湾法56条の2の2第1項が定める技術基準である。

 この技術基準は、法、省令、告示により構成されており、本件では、告示3条、13条、49条1項1号が具体的に問題となっている。

 一方、技術基準を解説する文献として、公益社団法人日本港湾協会が発行している「港湾の施設の技術上の基準・同解説」があるが、当然のことながら、同解説自体は、技術基準を構成するものではない。

 以上を踏まえると、本件における判断枠組みは、以下のように整理される。

 まず、公水法と港湾法は異なる法令であり、審査事項⑸が「例えば、少なくとも海岸護岸築造基準に適合している」との表現を用いていることからも明らかなとおり、港湾法に基づく技術基準は、公水法4条1項2号要件、ないしその審査基準そのものではない。

 さらに言うなら、技術基準を構成する告示も、地盤条件を適切に設定することや信頼性の高い方法により性能照査を行うよう求めるといった裁量的判断の余地を認める内容となっており、解説自体が技術基準を構成するものではない。

 結局、公水法の災害防止要件の審査基準は、港湾法の技術基準を参照しつつも、あくまでも、埋立承認申請ないし変更承認申請において、公有水面の埋立てにより生じ得る災害防止上の問題が的確に把握され、これに対する措置が適正に講じられているか否かを知事の専門技術的な知見から審査することを求める趣旨である。

 したがって、本件においては、技術基準や解説を参照した上で、本件において、B―27地点の力学的試験の必要性、調整係数の一律設定についての知事の判断が事実の基礎を欠き、あるいは社会通念に照らし明らかに妥当性を欠くか否か、ということが、審査されることになる。

 しかし、本件において、このようなことが言えないことは明らかである。

 すなわち、B―27地点の力学的試験の必要性については、前提となる地層区分が総合的な判断で、どうしてもあいまいさが残ること、S―3地点、S―20地点、B―58地点の各地点における深さと地盤強度の関係が地点間で乖離していること、変動係数はこれら3地点とB―27地点との間のばらつきを調整するものではないこと、Avf―c層、Avf―c2層が水面下90mに達し、地盤未改良の粘性土が残置される計画となっていること、同地点の設計上の重要性等に鑑み、知事は、B―27地点の力学的試験を実施すべきと判断したものであり、B―27地点のボーリング調査及び力学的試験のコストは、総工費と比較すれば、過大な要求でもなんでもないことからしても、このような知事の判断が事実の基礎を欠くとか、社会通念に照らし明らかに妥当性を欠くなどとは到底言えない。

 調整係数についても、そもそも解説の「1・10以上」との記述の元となっている論文は、地盤の不確定性等に応じて1・10以上の数値を挙げているのであるから、解説の「1・10以上」との記述自体、「1・10」であれば、どのような場合でも問題がない、という意味ではなく、地盤の不確定性等に応じて「1・10以上」の数値から適切な数値を選択することを求めている趣旨であることは明らかである。

 ましてや、上記のとおり、解説は技術基準そのものではなく、告示は信頼性の高い方法で安定性照査をするよう求めるにとどまっていることからしても、極めて膨大な土砂を投入して、国内で例のない深度の地盤改良工事を行う本件において、「1・10以上」の数値の中で適切な数値を選択することが必要と判断し、事業者に対して一律に「1・10」を選択した根拠を明らかにするよう求め、根拠を明らかにしなかったため、要件適合性が確認できないとした知事の判断が、事実の基礎を欠き、あるいは社会通念に照らし明らかに妥当性を欠くなどと言えないことは明らかである。
 以上