【識者談話】非正規職員の旧姓利用、区別に合理的理由はない


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
矢野 恵美氏(琉球大学法科大学院教授)

 県が非正規職員の旧姓使用を認めていなかった今回の件は複数の問題が絡み合っている。

 第一の問題は、なぜ旧姓使用が必要とされるのかだ。これは三つの理由がある。一つは名前が表す人としてのアイデンティティーの問題だ。日本人の場合は姓と名を併せて自分のアイデンティティーだと感じる人が多いだろう。二つ目は仕事上のキャリア継続の問題だ。仕事の場で、キャリアが下の名前のみで認識されることはまずない。三つ目は諸事情で姓が変わる度に使用する姓を変えなければならないのであれば個人情報の望まぬ開示になってしまう。

 第二の問題は、そもそもなぜ旧姓使用という問題が出てくるのかだ。それは日本の民法が婚姻の際に必ず一方に姓を捨てることを強要しているからだ。条文上は配偶者間のどちらでもよいとなっているものの、内閣府の2020年の調査でも現実には95%以上のカップルで女性が姓を捨てている。しかも夫婦同姓を強制している国はもはや日本だけと言われている。

 最後は、今回正規雇用者のみに旧姓使用を認めていたという問題である。非正規雇用者には上記のような問題が生じないと言っているようにも見えるし、この区別に何ら合理的な理由も見いだせない。内閣府の20年の調査でも、非正規雇用者の割合は女性が男性の2倍以上いる。

 今回の件は選択的夫婦別姓問題と併せて、女性の生きづらさ、働きづらさとも関係してくる。また、非正規雇用者への差別の問題にもつながる。実はこのような差別的な運用は各所で見られる。県には先頭に立って早急に対応してくれることを望む。
 (ジェンダー法)