<書評>『第二開国』 現代の黒船がもたらす未来


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『第二開国』 藤井太洋著 角川書店・2035円

 アメリカのペリーが、1853年4月琉球にやって来た。その2カ月後にペリーは、浦賀奉行を通してアメリカ大統領の親書を突き付け、徳川幕府に開国を強要した。幕府は鎖国が続けられなくなり「第一開国」へ突入する。その後は今日の日本。

 奄美大島は、2021年7月世界遺産に登録された。古志埜の町から眺めると、前方にはエメラルドグリーンに輝く大島海峡が広がっている。その先には加計呂麻島も横たわっている。この出身地である奄美大島を舞台に、第40回吉川英治文学新人賞に輝いた藤井太洋が「第二開国」の核心に迫る。

 島言葉を交えて語るSF小説は、主人公に大口をたたかせ、読者を意のままに物語の中へ引きずり込んでいく。

 …昇の横で徳田が立ち上がった。

 「さんとうよー」

 矢吹と華岡が首をかしげる。

 「と」に強いアクセントを置いた徳田の島言葉が通じなかったのだ。

 「三頭です」と昇が言い添えると、会場がざわめいた。

 この例文は、百キロの枝肉は、ヤギ何頭分に当たるか、という質問に答えたものである。

 ユリムンビーチが莫大(ばくだい)な資金を投下し、西久慈湾にクルーズ船の寄港地を建設しようとする。計画が着実に進んでいる中で、国土交通省は却下の命令を下す。島民の失望の声は大きい。そのような中で、難民救済の問題も並行。ここでいう難民とは、ばかでっかいエデン号の乗客と乗組員がほとんど。その乗客と乗組員は、亡命を希望している。入植させることで、久慈の町には、もう一つ町ができる。それでも、難民問題の解決に糸口は見えない。過去の戦争で発生したシリアほかの難民の数は、計り知れない。その上、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が勃発、さらに難民の数は増えるであろう。

 中国の尖閣諸島侵入や北朝鮮のミサイル威嚇など、わが国を取り巻く環境には、先行き予断を許さないものがある。「第二開国」のこのSF小説は、物語で終わるのではなく、世界中の国々が、戦々恐々としている中で、第3次世界大戦の勃発もあり得ると、われわれに示唆しているのである。

(東木武市・詩人/小説家)


 ふじい・たいよう 1971年奄美大島生まれ。2015年「オービタル・クラウド」で日本SF大賞と星雲賞を受賞。著書に「ハロー・ワールド」「アンダーグラウンド・マーケット」など。