<書評>『沖縄県知事 その人生と思想』 内在的に基地問題問い直す


社会
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『沖縄県知事 その人生と思想』野添文彬著 新潮社・1760円

 本書は、これまで国際政治学・日本外交史を専門とする立場から沖縄基地問題を研究してきた著者が、日本復帰後の歴代沖縄県知事の足跡を通じて、改めて沖縄側から内在的に沖縄基地問題を問い直した意欲作である。屋良朝苗から玉城デニー現知事まで、8人の歴代知事によって各章が構成される。特に、知事たちが職務に就く以前の人生における思想形成、および、歴代知事が取り組んできた基地問題と経済問題の絡まり合いという2点が重視されている。

 本書が注目するのは、歴代知事のいわゆる「県民党」的な立場である。世代差はありつつも沖縄近現代史を生きぬくなかで培われたアイデンティティーや、県民の多くが立場を超えて共有してきた基地問題・経済問題の改善への希求は、必然的に県知事を「県民党」的にさせ、「自立」を志向させてきた。

 日本復帰後における問題解決に向けた第一の交渉相手は日本政府であった。本書では、そうした歴代知事と政府関係者とのやり取りに加え、時々の米国側の反応などについても、先行研究を踏まえつつ、新たに日米両政府の公文書などを用いることで、より臨場感のある豊かな叙述がなされている。

 本書は、沖縄に対する日本政治のあり方が、2000年代に大きく変化したことを強調する。そこには日本の政治家の世代交代や、官邸主導の問題、東アジアにおける安全保障環境の変化などが背景としてある。世代交代については、沖縄の歴史に理解を示す政治家が見られなくなったと指摘する。変化以前には、沖縄に理解を示し、対話可能な政治家との間で、歴代知事は時に「苦渋の決断」を行ってきた。しかし変化以後は、沖縄への無理解が対話を困難にし、対日本政府を前提とした「オール沖縄」運動が起こり、現在は玉城知事と日本政府との対峙(たいじ)が続く。

 本書は、いま再び強調されつつある「保守か革新か」「基地か経済か」「日本政府との協調か対立か」といった二項対立的な語りを相対化する。いま歴史から現在を考える上で、必読の書だといえよう。

(櫻澤誠・大阪教育大准教授)


 のぞえ・ふみあき 1984年生まれ、滋賀県出身。沖縄国際大准教授。主な著書に「沖縄返還後の日米安保 米軍基地をめぐる相克」「沖縄米軍基地全史」。