<書評>『沖縄「平和の礎」はいかにして創られたか』 近い過去を知る一冊


社会
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『沖縄「平和の礎」はいかにして創られたか』高山朝光、比嘉博、石原昌家編著 高文研・1870円

 本書は、平和の礎の建設に携わった編著者らが、それぞれの立場で礎の建設を振り返った記録である。第1章は、高山朝光と比嘉博が行政の立場で、大田昌秀知事の誕生から礎建設までの流れをまとめている。第2章は、研究者として刻銘検討委員会の座長を務めた石原昌家が、礎の建設前後に起きたこと―研究者による批判、朝鮮半島の南北代表のあいさつ、遺族の反応など―を考察し、所論としてまとめている。第3章は、それぞれ建設準備、除幕式を担当した松本淳、新垣義三が当時を振り返り、式典受託社の佐々木末男が当日の思い出を記している。

 礎の建設を担当した「平和推進課」は、大田の掲げた平和行政の担当課として発足したが、当時全国でも例がなかったという。礎の建設のみならず平和推進課の新しい仕事について具体的に書かれており、当時の平和に関する施策の全体像を知ることができるのは貴重だ。

 全体を通して印象的なのは、刻銘に関する課題が各章で示されていることだ。特に全数調査の不足と朝鮮半島出身の死者の刻銘の空白について詳細に触れられている。たびたび指摘されてきたことではあるが、あらためて建設準備の流れを追うなかで見ていくと、戦後50年の節目の除幕を目前に、実質4カ月という短期間で初めて沖縄戦の死亡者の全数調査が行われたという事実に驚く。

 近い過去のことは、同時代を生きた者にとって自明であるために改めて語られることがなく、若い世代は、出来事の概要をつかむことさえ難しいことがある。27年前の礎の建設にまつわる事柄もそうではないか。本書は、礎の建設という近い過去を知るための最初の一冊となるであろう。

 著者らは、礎の課題への関心の低さを残念がっている節がある。「復帰」50年の年に刊行を急いだのも、議論を喚起し、課題への取り組みを期待してのことであろう。課題や懸念に向き合うことを含めて礎を継承してほしいという呼びかけの書と受け止めた。

(仲田晃子・ひめゆり平和祈念資料館説明員)


 たかやま・ちょうこう 1935年本部町生まれ。沖縄県政策調整監、那覇市助役など歴任。著書に「ハワイと沖縄の架け橋」。

 ひが・ひろし 1951年北中城村生まれ、沖縄「平和の礎の会」事務局長。県庁職員として「平和の礎」建設事業に計画段階から除幕まで参画。

 いしはら・まさいえ 1941年台湾生まれ、沖縄国際大名誉教授。著書に「国家に捏造される沖縄戦体験」など。

 

高山朝光・比嘉博・石原昌家 編著
A5判 142頁

¥1,870(税込)