自衛隊が米軍と一体となって進める「南西シフト」。日本最西端の国境の島、与那国島の周辺海域では2022年、中国軍が台湾周辺に撃ち込んだミサイルが着弾するなど緊張感が増した。同時に日米の統合演習や弾道ミサイルへの避難訓練などもあり、小さな島は大きく揺れた。糸数健一与那国町長に現状に対する考え方を聞いた。
―先日「与那国のことが島外に伝わらない」と言っていた。その意味は。
「2021年に与那国で、台湾軍の訓練とみられる砲撃音が聞こえることがあった。台湾問題で、同じ先島や沖縄本島の住民でも与那国ほど直接的な肌感覚はないと思う。この島に住まないと分からないことがあると感じている」
―昨年11月に、町内で実施された日米共同統合演習の受け止めは。
「今まで訓練をしてこなかったというのは、米軍も自衛隊も中国に対する忖度(そんたく)が強すぎたのだと思う。ところが中国の行動がエスカレートしており、これ以上放置するわけにはいかない。放置するというのは誤ったメッセージを中国に送ってしまうことになる」
―町は台湾有事を想定し、住民避難に必要な費用を支給するための基金の設置を検討している。
「国民保護について県や国からは具体的な考え方が示されていない。民間交通機関は(住民避難に)どこまで協力してくれるのか。国はこういう状況をシミュレーションしているのだろうか。自衛隊には自衛隊の任務があるわけで、住民保護は行政の責務だと思う」
―町民からは日米共同統合演習などについて「緊張感を生む」という意見も出た。そうした声に対して思うことは。
「訓練をすることで中国を刺激するという意見もあるが、別な見方をすれば中国が何もしなければ訓練をする必要はない。(昨年8月の)中国のミサイル発射は日本に対する威嚇であり、防戦する意志を発信する必要があるから訓練している」
(聞き手 西銘研志郎)