遺体に防腐処置を行う「エンバーミング(遺体衛生保全)」によって、ゆとりある日程で告別式や火葬を行い、故人や家族が望むお別れを実現しようと、葬儀などを請け負う「敬天」(南風原町)代表の當眞ゆいさん(33)と、エンバーミングの民間認定資格を持つ弟の嗣音(しおん)さん(29)がエンバーミングセンターの設置を目指している。全国初のトレーラーハウス型移動式センターを目指したクラウドファンディングは目標の1千万円には届かなかったが、処置用機材を購入して今春にも始動したい考えだ。
遺体に衛生保全液を浸透させることで、遺体からの感染のリスクも低減できる。最長で50日間、状態維持が可能。葬儀の日程調整に追われることがなくなるほか、化粧や外傷の修復も容易で、長い闘病生活の後でも生前の面影を取り戻しやすくなるという。処置後は家族と髪型や化粧を相談できるため、納棺師でもあるゆいさんは「エンバーミングによって、お別れ時に心残りがないよう、ゆとりを持って愛を表現する場をつくりたいと考えている」と語る。
高齢化で死亡者が増える中、昨夏は新型コロナウイルスの影響もあり、火葬まで1~2週間かかる事態も起きた。嗣音さんによると、遺体の変化は健康状態や死去時の環境などで異なるが早くて1、2日で現れる。1日数万円かかるドライアイス保存でも変化は避けられず、遺族の悲しみが増す事例もあるという。エンバーミングは15万~25万円がかかるが、火葬まで日数が延びても負担が増えない利点もある。
県外で経験を積んできた嗣音さん。県内での実績はまだないが、沖縄にこそ必要だと考えている。高温多湿で告別式前の火葬が多く、国内外からの観光客が亡くなった場合、遺体搬送にも対応できるからだ。「死は悲しいイメージも多いが、残された人がよりよく生きていく形として広めていきたい」。事業が軌道に乗れば、県外で活躍する県出身のエンバーマーも呼び寄せたいという。
(嘉陽拓也)