<書評>『生き物をうさがみそーれー 沖縄・奄美 おじいおばあの食物誌』 「食べる」知恵と創造性


社会
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『生き物をうさがみそーれー 沖縄・奄美 おじいおばあの食物誌』盛口満著 八坂書房・2090円

 ソテツやドングリの料理法、マングローブ林の巨大シジミのお汁、アダンの新芽やオオウナギのから揚げ、クバ(ビロウ)の花芽の煮物…。本書に登場する動植物の多くは、琉球弧に暮らす私たちにとって身近な生き物だ。ただし、私たちはこれらを「食べる」対象として認識してきただろうか。物語られるカタツムリ汁やクサギの新芽を入れたグリーン・ドロドロ・ソーメン(!)などの食事を、実際に再現して食べてみようと思ったことはあるだろうか。

 ご飯物と代用品、汁物、揚げ物、煮物と続く章立ては、まるで料理本のよう。しかし、本書は単なるレシピ本ではない。島々のお年寄りから教えていただいた「何を」食べるのかに焦点をあてた本だ、と筆者はいう。370種類以上もの料理名や食材となる生物名が並ぶ索引は圧巻だ。本書は生物学者である筆者が島々をたずね歩き、そして実際に作って食べた研究実践の足跡である。生き物好きにも食べ物好きにも薦めたくなる、そんな一冊だ。

 琉球弧の島々はサンゴ礁が隆起した低島と、山や森、川のある高島の二つのタイプに分けられる。とりわけ川の発達しなかった低島では、主食となるでんぷん質を供給する食材として、サツマイモなどのイモ類やソテツを大切にしてきた。ところがソテツはよく知られるように、実や幹に毒がある。その処理を適切にしなければ命に関わる。つまり「食べることは、食べてはいけないこと」との両義性を伴う行為である、と筆者はいう。本書には生き物から「食物」として価値変換(トランスフォーム)するための毒抜きや保存、おいしさなどの工夫を凝らした在来知と技術、そして創造のプロセスが物語られる。

 読後、カシの実を食べたイノシシの内臓の苦みなど、食を通した人々の自然に対する鋭い観察眼に好奇心がくすぐられる一方で、筆者が奄美大島でいくつものサツマイモ料理を教えてもらった大正11年生まれのサトさんに言われた言葉が、評者の胸にも刺さった。「あんたがおじいになるとき、語って聞かせる昔ばなしはあるか?」。さぁ、今日は何を作ろうか。

(高橋そよ・琉球大准教授)


 もりぐち・みつる 1962年千葉県生まれ、沖縄大前学長。著書に「琉球列島の里山誌」「ゲッチョセンセのおもしろ植物学」「歌うキノコ」など多数。