「本を通して若い世代に平和を考えてほしい」沖縄戦体験の聞き取り続けた故岡本貞雄さん、蔵書2000冊が沖縄に


社会
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岡本貞雄さんから寄贈された約2千冊の蔵書=那覇市首里金城町の養秀会館

 沖縄戦体験者の話を聞く活動を学生らと続け、2022年12月に70歳で亡くなった、広島経済大名誉教授の岡本貞雄さんの蔵書約2千冊が県立第一中学校・首里高校の同窓会組織「養秀同窓会」(與儀毅会長)に寄贈された。15日、那覇市首里金城町の養秀会館で寄贈式が行われ「本を通して若い世代に平和を考えてほしい」との遺志が引き継がれた。

 岡本さんは、被爆地広島と激戦地沖縄から平和を考えようと、2007年から毎年、学生らと戦跡や慰霊碑を徒歩で巡る「オキナワを歩く」に取り組んできた。3日間かけて当時を追体験する活動で、飢えや渇きを感じるため、口にするのはわずかの水やスポーツドリンク、栄養補助食品のみ。養秀同窓会の元学徒たちからも話を聞き、交流があったことから寄贈が実現した。

 亡くなる直前に岡本さんから相談を受けた元ゼミ生らが尽力。岡本さんの実家にあった蔵書など1953冊が寄贈された。沖縄戦や戦後の沖縄政治に関する324冊、近代日本の戦争に関する1530冊など。

 贈呈式で、蔵書の運搬に協力した教え子の川畑正祥さんは「先生は戦争の語り部が高齢化を迎え、平和に関するものをどうやって伝えていこうか、常に悩んでおられた。書籍を後世に伝えたい、とも話しておられた。幅広い人に見てほしい」と話した。

 養秀同窓会の與儀会長は「平和と若い世代に対する先生の思いを受け止め、遺志に添えるよう努めていきたい」と感謝した。「養秀文庫」に納められ、準備が整い次第、公開される。

 岡本さんは戦艦大和乗組員の「平和の礎」への追加刻銘を働きかけた。22年8月、本紙の取材に「一人一人の死を悼むことにつながる」と意義を語っていた。 (中村万里子)


 

「現場実感」指導に感心

翁長安子さん

 岡本さんは、翁長安子さん(93)の沖縄戦での体験を2019年に学生らと追体験し、翌年、本にまとめた。被爆2世で平和や命の尊さを考えた岡本さんの思いに触れていた翁長さんは、贈呈式で「一生懸命に平和学習をなさった先生がこんなに早く逝かれるのかと、大変残念でたまりません」と惜しんだ。

 翁長さんは、沖縄戦で首里安国寺の永岡隊救護班に所属し、米軍の馬乗り攻撃で壕を脱出。一人で南部に向かうなど壮絶な体験をした。岡本さんが学生に「『住民がどんなに苦しい思いをして逃げ回ったか、身をもって体験しなさい』と指導しているのを見て、なるほどね、語ることはいくらでもできるけれど、現場で実感させていた」と感心したと振り返った。

 翁長さんは岡本さんの遺影に向かって感謝を伝えた上で、元ゼミ生ら若い世代に向け「台湾有事」などを念頭に、戦争を回避してほしいと訴えた。

 「最近、78年前に戻ったような感じがする。二度と世界戦争が起こらないように、政治の力で戦争を止めてほしい。二度と私のような戦争を体験させたくないという思いでいっぱいです。絶対に戦を起こしてはいけないんだ」