突然の学級担任、免許を持ってない教科の指導…「公教育は崩壊しているのか」<先生の心が折れたとき 教員不足問題>第1部③小学校教員


この記事を書いた人 Avatar photo 瀬底 正志郎
教員免許外の教科担任は、教材研究より先に「学び直し」が必要で、授業準備に時間がかかった(写真はイメージです。本文とは関係ありません)

 「学級担任になってくれないか」。おととしの4月、中学校の支援員として着任した男性=30代=は校長から急な依頼を受けた。入学式まであと2日。知り合いを通じ、男性が中学校社会科の教員免許取得者と知ったらしい。確かに教員になりたいと思っている。「時間がない、この場で決めてほしい」。あっけにとられていると、免許を持っていない教科の指導も頼まれた。

 「大丈夫、指導書の通りやればできるから。やる気があるかどうかの問題だよ」

 学生時代に大の苦手だった教科を教えるなんて無理だ。採用試験の勉強もある。でも代わりが見つからないと困るだろうし―。混乱したまま、押し切られるように引き受けた。嫌な予感しかなかった。

 ■免許外の授業

 以前は高校で臨時的任用職員(臨任)をしていた。勉強や人間関係に思い悩みながらも、前に進もうとする子どもたちの姿に感動し、教師への思いを強くした。一方で、合格を目指す高校の教科の採用人数は少ない。勉強時間の確保が必須だった。

 学級担任を受け持ち始めた中学で、管理職は「合格するまで免許外の授業をしている人はたくさんいるよ」と励ましてくれたが、免許外教科を教えるには教材研究より先に「学び直し」が必要だった。学生時代に学んだ知識を取り戻し、その後でどう教えるかを考えた。

 連日午後9時前後まで学校に残り、帰宅後も午前3時頃まで教材研究をした。学級担任としての仕事もある。午前6時前に起床して準備を急いだ。運動部の副顧問も務めた。土日のいずれかは活動場所の施錠責任を負い、学校に出なければならない。受験の勉強は全くできなかった。

 ■改善に期待

 「目がうつろだよ。無理し過ぎだよ」。心配する妻と相談し、数カ月後に退職した。その年の採用試験は不合格だった。

 教職の魅力ややりがいは経験して知っている。療養しながら自分の気持ちを再確認し、改めて教員を目指そうと決めた。

 今は小学校で、障がいのある児童を支える特別支援員をしながら受験に備える。勤務先の学校には何カ月も担任不在の学級があった。教師不在の教室で子どもたちが自習をしている様子を見ると、「もう公教育は崩壊しているのではないか」と不安が色濃くなった。

 業務過多など、教育現場が抱える課題は以前から指摘されてきた。改善は進まず、精神疾患による病休者の増加やなり手不足など、教員不足は深刻化してきた。「もう現場でできることはない。国よりも、地域の実情を知っている自治体や県の方が実効的な施策を素早く打てるはずだ」。一度折れた心を修復しながら、教育現場で踏みとどまり、行政が打つ改善の一手に期待を込める。

(嘉数陽)

【用語】免許外教科担任

 中学・高校の教科教員を採用できない場合、都道府県教育委員会の許可で、その教科の免許状を取得していない教員が担当できる制度。任期は1年限定。沖縄では2020年度、中学で202人、高校で106人が免許外教科担任を務めた。

 文部科学省は安易な許可は行わないよう求める通知を出して解消を目指している。高知県土佐町では21年、中学美術科などで常態化し、町議会が「子どもの学習権に関わる」などとして解消を求める意見書を採択した。

 

連載「先生の心が折れたとき」

 精神疾患による教師の病気休職者が増え続けている。文部科学省の調査によると2021年度、全国の公立小中高・特別支援学校で過去最多の5897人。沖縄も過去10年間で最多の199人、在職者数に占める割合は全国で最も高い1・29%だった。心を病んだ理由はそれぞれだが、当事者の多くは要因の一つに、就業時間内に終えられるはずがない業務量を指摘する。休職者の増加は他の教員の業務負担につながり、さらに休職者が出る連鎖が起きかねない。心が折れてしまうほど多忙な教員の1日のスケジュールを取材した。

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