「すずめの戸締まり」の新海誠監督、沖縄で語った作品に込めた思い 震災、そしてエンタメにできることとは


社会
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 新海誠(しんかいまこと)監督の最新作のアニメ映画「すずめの戸締まり」の舞台あいさつが21、22日の両日、県内の映画館で開かれ、新海監督が登壇した。新海誠監督へ今作に込めた思いなどを聞いた。 (聞き手・田中芳)

大ヒットアニメ映画「すずめの戸締まり」について、インタビューに答える新海誠監督=21日、那覇市内(又吉康秀撮影)

 ―構想のきっかけは。

 「映画を一つ作ると半年ほどかけて日本全国や海外を回るが、場所を巡って見た風景が影響している。日本は人口減少で過疎化が進みシャッター街が増え、かつてに比べたら、人が少なくなり、寂しい風景が増えている。僕たちの住んでいる場所や国は、この先も短中期的には人が減り続けるだろう。どんどん新しい扉を開いて、新しい可能性を探していくような物語よりは、一つ一つ扉を閉めながら、かつてその場所にあった人々の感情のようなものを、もう一度振り返り、進んでいく物語の方が自分自身が作れると思った。観客にも共感してもらえる気がして、今回の物語になっていった」

 ―東北の大震災も描いているが震災を描く理由は。

 「2011年の東日本大震災が、自分自身の考え方や極端な言い方で言えば生き方を変えたというのが一つのきっかけ。自分が被災地の当事者ではないこと、『エンタメ』という社会的には必須ではない仕事を続けていることへの後ろめたさ、疑問みたいなものを感じていた。その後もアニメ映画を作り続けることを選んだが、アニメ映画なりに、エンタメにしかできないような、災害や震災の関わり方を見つけることができればと思った。その後の『君の名は。』や『天気の子』の中でも、災害を扱う作品を作ってきて、その映画の流れの中に『すずめの戸締まり』がある。11年に自分自身の中で起きた変化、というものがこの映画を作らせたんだと思う」

 ―リアリティーのある情景描写も作品の魅力の一つ。監督自身が描いた作品の絵コンテは合計1988カットに及んだ。

 「九州から始まり東北まで移動していく中で風景のモチーフも変わっていく。例えば、東京から東北まで(主人公の)鈴芽(すずめ)は車で移動していくが、ほとんどのカットで海の手前に防潮堤があって、意外に海が見えない。福島、宮城、岩手までの太平洋側には総延長400キロに及ぶ防潮堤がある。地元の方以外はあまり意識していないことかもしれない」

 「実際に車を走らせると、人が住んでいないエリアが工事の人々でたくさんにぎわい、地元のホテルにも観光客はいないのに工事の人ばかりという状況があった。善しあしではなく、そういう状況にあるので、風景をアニメの中で切り取って描きたいと思っていた。絵コンテはどの辺りが舞台になるか、ということを考えながら街を歩いて写真を撮ったりしながら、場所を探してロケハンを繰り返し1年3カ月ほどかけて描いた」

 ―昨年、監督デビュー20周年を迎えた心境は。

 「02年の『ほしのこえ』で自主制作から始めた。最初の10年はアニメの作り方もよく分からなくて、『こうやればアニメっぽい映像になるのかな』と考えながら、いろんな場所にぶつかりながら、見よう見まねで作っていた。その後の10年ほどは東日本大震災が起きたことが一つのきっかけとなり、観客と同じ問題意識を共有したアニメが作りたいという気持ちで取り組んできた。20年もたつのかと、ちょっと驚きの気持ちだ」