国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)は沖縄県内でも認知が広がり、市民や企業の取り組みも活発化してきた。2022年度の琉球新報のSDGs特集は県内を中心に国内、海外の話題を紹介し、県民が気軽に参加できるアクションの情報を提供している。今回は、中部農林高校定時制の有志5人が給食の生ごみを集めて生成した堆肥を活用して野菜を栽培し、給食の食材として調理場へ提供する取り組みなどについて紹介する。
レタス収穫 給食調理場に提供も
県立中部農林高校の定時制農業科に通う生徒5人が、給食の生ごみを堆肥化し、その堆肥を活用して栽培した野菜を給食の食材に使う企画に取り組んでいる。同校定時制は、授業前に給食がある。堆肥を作るための容器「コンポスト」を校内の一角に設置し、給食の調理過程で出た野菜・果物の皮や残飯を入れ、分解や発酵を促進する作業を続けて堆肥を生成する試み。昨年1月には、この堆肥を活用してレタスやホウレンソウを栽培して実際に給食のサラダとして提供することができた。
企画は、SDGsの認知度向上や目標達成に向けた機運を高めるため、県が主催した「知る。考える。動く。SDGs OKINAWA グランプリ2021」自由テーマコースの高校生部門でも提案し、最高賞のグランプリに輝いた。
取り組んでいるのは、同校定時制農業科4年の金城信哉さん(22)、幸地伸之介さん(19)、国吉航太さん(19)、新里将永(しょうえい)さん(19)、長濱礼音(れおと)さん(19)の5人。始めたのは3年生だった2021年4月からだ。自由にテーマを決める授業「課題研究」の中で、給食の残飯や調理過程の生ごみを減らすために「自分たちにできることはないか」と考え、企画をまとめた。
生ごみを放置するだけでは堆肥にならない。分解や発酵を促す作業が必要となる。生徒らは職員室から出たコーヒーのかすや、地域の食堂からもらった米ぬか、学校で集めた雑草などを生ごみが入ったコンポストに入れた。その上で、2日に1回のペースでスコップを使い、混ぜる作業を約6カ月続け、21年12月に堆肥が完成した。
次にプランターでレタスやホウレンソウを栽培した。給食の生ごみから生成した堆肥を入れて2~3週間後には大きく成長し、22年1月後半には給食室に食材として野菜を届けることができた。給食への提供が実現できたことについて、生徒5人は「自分たちで作った野菜を食べてもらえてうれしかった」と振り返る。
県主催のグランプリでも最高賞に選ばれたことは自信につながった。5人の中でまとめ役でもある金城さんは「大きな一歩だと喜ばしく思った」と話す。ただし、この企画に取り組んできた生徒5人は全員、3月に卒業を迎える。金城さんは「形を残しながら、後輩にも自分たちで新たなコンポスト作りをやってほしい。中部農林高校定時制の取り組みとして広めてほしい」と期待を込めた。
本格取り組み 認知度課題 地域・企業との連携 鍵に
中部農林高校定時制農業科の生徒5人は、給食から出る生ごみを堆肥化し、その堆肥を活用して野菜を育て、給食に提供する取り組みを通して、持続可能な開発目標(SDGs)に貢献することも意識した。
生ごみの堆肥化で、生ごみを捨てる際のごみ袋も削減できる。このことで、SDGsのゴール12「つくる責任 つかう責任」を意識した。
野菜を栽培して給食に提供していく仕組みを校内で構築していくことで、食材を車などで輸送する際の二酸化炭素の削減にもつなげていくことも目指した。輸送のコストや環境への負荷にも配慮し、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」にもつなげたいと考えた。
ただし、本格的に取り組むためには、もっと多くの生ごみを集めた上で、堆肥化していく取り組みが必要となることも痛感したという。企画に賛同して協力してもらえる企業を探し、連携していくことなども課題として残った。
堆肥化に活用する容器「コンポスト」の認知度を広げ、給食がある学校や地域への広報活動なども取り組む必要性を課題として挙げた。
生徒らは「学校だけでなく、家庭のごみなどもコンポストによって活用できたらいいなと感じた。ごみを活用するのも楽しいと思う」などと呼びかけた。
SDGs(持続可能な開発目標)は2015年、国連サミットで採択された国際社会の共通目標。環境問題や貧困などの人権問題を解決しながら経済も発展させて持続可能な未来を創ろうと、世界中で取り組みが進められている。
取材・古堅一樹