【深掘り】米軍つり下げ訓練、増加の恐れも 新戦略構想も関連 過去に落下事故たびたび 沖縄


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米陸軍トリイ通信施設内で小型ブルドーザーをつり下げていたCH53E大型輸送ヘリコプター=2022年4月19日、読谷村の米陸軍トリイ通信施設

 米軍が1、2の両日、大型輸送ヘリで車両をつり下げて輸送することを計画している。米軍のつり下げ輸送はたびたび車両や訓練用標的、コンテナなどの落下事故につながっており、県は中止を求めている。一方、つり下げ輸送は米軍が沖縄を拠点として力を入れている新たな戦略構想に使う能力の一つで、今後、同様の訓練がさらに増える恐れがある。

 海兵隊は2006年、読谷村沖でヘリでつり下げ輸送中に車両を落下させた。20年にも同村沖に鉄製の標的を、21年にも渡名喜村沖に鉄製コンテナを落とした。いずれも今回の計画と同じCH53E大型輸送ヘリによるつり下げ輸送中だ。

 一般的に民間機がつり下げ輸送中に落下事故を起こせば「重大インシデント(事案)」に認定され、運輸安全委員会の調査対象となる。だが、米軍は日米地位協定によって航空法を適用されない。米軍が危険を伴う訓練を繰り返す背景には、こうした特権がある。

 地位協定第5条は米軍車両の基地施設間の移動を認めている。ただ、県は軍用機による軍用車両の輸送そのものが「訓練に相当する」として、提供区域以外では実施しないよう再三求めてきた。県関係者は「県内には広大な提供施設・区域がある。区域外ではやってほしくない」と語った。

 米軍による「輸送」は、それ自体が「訓練」と同じ意味を持つ。過去の事例や戦略からも容易に理解できる。

 海兵隊は離島を占拠して臨時に攻撃や補給の拠点を造って戦う作戦構想「遠征前方基地作戦(EABO)」に取り組んでいる。離島に臨時の拠点を設けるため、物資も空か海から島に運び込むことを想定する。その方法の一つが、輸送ヘリや垂直離着陸輸送機オスプレイによるつり下げ輸送だ。

 米軍は県内でEABO関連の訓練を繰り返してきた。さらに在沖米海兵隊の一部部隊は25年までにEABOに特化した海兵沿岸連隊(MLR)に改編される予定だ。MLRが運用するミサイル発射機は持ち運びやすいように小型化・無人化されている。

 世界的な海兵隊の戦略に基づいて同様の訓練が増えれば、県民が危険にさらされる可能性がある。
 (明真南斗、知念征尚)