【識者談話】「国防」と「市町村の安全」の間に感じる乖離とは 佐藤学・沖国大教授<安保3文書・首長アンケート>


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 この首長アンケートには「国防」と「市町村の安全」の間の意識乖離(かいり)が見られる。多くの首長は国防の観点から現在の状況を論じている。中国という国家にどう対峙し、抑止するかの点から考えているように思える。その考えの下では、沖縄島や新たに自衛隊基地が配備される島々は、大きな戦争の図の中での無機質なパズルのピースでしかない。東京にとっては沖縄全体がそのピースだ。

 一方、沖縄の市町村は、一度戦闘が始まれば住民の避難に責任を持たねばならない。だから地下シェルターの建設要請や航空便、船便の準備を考えざるを得ない首長も出てくる。しかしその役割を真剣に果たせば、島嶼(とうしょ)県沖縄で戦闘行為中に住民の安全を守るのは、そもそも不可能であることが自明になる。

 沖縄の首長の真の責任は「国防」の観点からそれぞれの市町村をパズルのピースとさせないために「ここは人が住むところである」という現実を訴えることである。それが当事者意識を欠く日本国民全体の目を覚ますことになる。

 多くの首長が外交努力の重要性を言っているが、それをより強い一致した声にしていく必要がある。中国と戦争になれば生き残れない、食べていけないのは県民だけではない。日本全体である。戦争への流れを止められるのは今しかない。

(政治学)