有機フッ素化合物(PFAS)の人体への影響を示すデータが増えてきた。海外では規制を厳格化する動きがあり、汚染が各地で見つかる日本も対策強化の検討に乗り出した。だがどこまで踏み込むかは見通せず、一部の住民は独自に対応を始めている。
発がん性
有機フッ素化合物はラット実験などで腎臓や肝臓などに影響が生じるとの研究がある。人への影響を見る追跡調査も米国や欧州のほか、国内で実施されている。
欧州食品安全機関は有機フッ素化合物のうちPFOSやPFOAという物質の体内濃度と、コレステロール値の上昇に関連があると報告。米国では専門家のチームが住民を調査し、精巣がんや腎がんのリスクを増加させ得ると結論付けた。国際がん研究機関はPFOAを「発がん性が疑われる物質」に分類する。
北海道大は母親から胎児への移行の影響を調査中だ。妊婦の血中濃度が高いと、出生時の体重が女児で低くなったり、乳幼児期の感染症のリスクが増したりするといった結果が出ている。
米軍基地
世界保健機関(WHO)や米環境保護局(EPA)など海外の一部では水質基準の策定や厳格化に動くが、国によって対応にばらつきがある。
国内では厚生労働省と環境省が2020年、水道水と、河川など環境水の水質管理の暫定目標値を定めた。海外を参考にPFOSとPFOA合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)とした。
各地でこの値の超過が相次ぐ。沖縄県は目標値設定前の15年に浄水場で、両物質合計で同120ナノグラムを検出。以降、米軍嘉手納基地や普天間飛行場周辺で超過が続き、米軍の泡消火剤との関連が疑われる。
22年夏の米軍基地周辺の調査は、湧き水で最大42倍など46地点中32地点で目標値を超えた。沖縄以外でも21年度、13都府県の河川など81地点で上回った。
東京都では多摩地域の浄水所などで高濃度に検出され、市民団体が住民の血液検査に踏み切った。一部の人で濃度が高く、平均値は環境省が21年に全国3カ所で行った調査結果を大きく上回っていた。米軍横田基地との関連が指摘され、市民団体の根木山幸夫さんは「厳しい水質基準を設け、汚染源を特定してほしい」と訴える。
予防原則
国は今年1月、水質基準の見直しや有機フッ素化合物全体への対応の検討を始めた。食品安全委員会も健康影響評価の実施を決めた。ただ環境省幹部は「毒性評価が定まっておらず、指針策定は簡単ではない」と話す。
環境中だけでなく、血中濃度の目安を設けた国もある。健康影響の恐れがある値としてドイツは原則PFOSは1ミリリットル当たり20ナノグラム、PFOAは同10ナノグラム、米国は有機フッ素化合物の合計で同20ナノグラム超とする。日本は目安策定に慎重だ。
京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「科学的な不確実性を対策を取らない理由にせず、予防原則にのっとり、汚染状況を特定し広がらないようにすることが基本だ」と指摘。PFOSやPFOA以外に血中から検出される物質を含め、水質や血中濃度の指針を設けるよう求めた。
(共同通信)