<書評>『沖縄の地域文化を訪ねる 波照間島から伊是名島まで』 独自視点で島々深掘り


社会
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『沖縄の地域文化を訪ねる 波照間島から伊是名島まで』今林直樹著 コールサック社・2200円

 著者は2016年に『沖縄の歴史・政治・社会』を出版したが、20年の間島々を歩き、地域の人々との交流を通して「沖縄の方々の温かな心遣い」を実感し、「その深く温かな眼差(まなざ)しの謎を解きたい」との思いに駆られたという。

 本作品は、沖縄の人々のフレンドリーな気質と平和への希求を基調としたエッセーであるが、沖縄の自然・工芸品・伝説・民俗を中心にした地域文化論としても楽しく読める。大宜味村喜如嘉では、芭蕉を刈り取り、皮を剥いで煮て、紡ぐ工程を体験するが、その折98歳の平良敏子さんが紡ぐ作業姿を生で見て「不思議な感動が湧いてくるのを抑えることができなかった」と述懐する。熟練された技能者の動きを読み取ったからであろう。

 ヤチムンでは、金城次郎の「自由になって独創的になるのはたいへん結構なことだが、改良しているつもりで悪くなっている面もある」という言葉を紹介する。そして、「文化の進歩あるいは発展論を近代化論的に単純に捉えているのではないことがわかる」と伝統の継承と創作の在り方について述べる。その言説には、著者の伝統工芸品に対する造詣の深さがうかがえる。

 また、伝説では、役人の命令で強制的に石垣島へ移住させられたマーペーが、恋人の住む見えない郷里黒島を見るために山に登り石化した話を紹介する。そして、彼女が石化したのは「自由になるためには、そこから逃げて石になるしかなかった哀しみ」と述べる。「ほのかな救いが見える」解釈であり、地域に寄り添った見解である。

 宮古島の島尻自治会長は、祖神祭を継承する大神島・狩俣集落・島尻集落の位置関係が「正三角形」であると説明する。それを聞いた著者は、「このような見方が正しいと証明できるものは何もない」と述べつつも、そこに「島に生きる人々の目に見えない世界観をみせてくれているように感じた」と、その思考に共感する。

 本書は、沖縄の人々の温かな心遣いに魅(ひ)かれた著者が、島々村々の文化を独自の視点で深掘りした好著である。

 (狩俣恵一・沖縄国際大名誉教授)


 いまばやし・なおき 1962年兵庫県生まれ、宮城学院女子大教授。著書に「沖縄の歴史・政治・社会」「地域の構築・記憶・風景―沖縄・ブルターニュ・バスク―」など。