【識者談話】地域住民を交え議論を 多頭飼育問題 (打越綾子・成城大法学部教授)


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打越 綾子・成城大法学部教授

 多頭飼育問題を引き起こす最初のきっかけに「殺処分はかわいそう」という善意があることが多い。とはいえ、多頭飼育の結果、客観的に見て適正な飼育環境を実現できなければ、動物虐待として位置付けられてしまうのは当然である。また、多数の動物の過密な飼育状況は、動物の健康状態だけではなく、近隣の生活環境も悪化させる。そのため、近所迷惑として周辺からも忌み嫌われる事案になりがちである。

 環境省の多頭飼育対策のガイドライン策定時に、全国385事例を調査・分析した。一つ一つの事例に向き合うと、飼い主自身が経済的な困窮や社会的な孤立に悩み、また心身の健康上の問題を抱えていることが多いことが分かった。これらは本来ならば社会福祉政策の一環として対応すべき課題だ。したがって多頭飼育問題の予防と解決のためには、動物愛護の問題としてだけではなく、地域、社会福祉の課題として、多機関・多職種の関係者が認知し対処する必要があるだろう。

 崩壊を防ぎ、人と動物が共生する社会をどのように実現していくのか。

 多頭飼育問題に臨む動物愛護部局の職員、愛護団体のボランティアは苦悩と葛藤にさらされる。だからこそ、動物愛護部局と動物愛護団体だけではなく、社会福祉部局、地域住民が連携した議論の場と、それに基づく連携構築が求められている。(元・環境省「社会福祉施策と連携した多頭飼育対策に関する検討会」座長)