名護市で進む一本の道路建設が住民を悩ませている。信仰の場として大切にしてきた山に高齢者が行けるようにと、地元の願いに沿った計画だが、発掘調査で極めて希少なグスクの遺構が見つかった。一部完成した道路も聖域である山を削っており、考古学の専門家団体は市側に遺跡保存や活用を要請。計画にどう向き合うべきか、住民の思いは揺れている。
深い緑と青い海が広がる名護市嘉陽。人口約90人の集落付近に標高約70メートルの小高い山がそびえる。「嘉陽上(かよううえ)グスク」と呼ばれ、ほこらがある頂上付近の拝所では、旧暦9月20日などに地区住民が伝統行事を催してきた。
ただ、急な坂や階段が続く歩道しかなく、足腰の弱い高齢者は麓での遥拝(ようはい)を長年余儀なくされた。「みんなでお参りしたい。拝所の維持管理にも役立つ」。こうした思いを抱く住民も多かった。
市によると、道路整備は地区が市に要望した。市は行事への参加者の増加が地域の活性化につながると判断。現地は津波など災害時の避難所でもあり、造成を決めた。
計画に再考を促したのは、工事に先立つ2020年度からの発掘調査だ。沖縄で300カ所あるとされるグスクの中でもわずか十数カ所という、石垣を持たない「土のグスク」が良好な状態で残っていることが判明した。市教育委員会によると11世紀後半~16世紀に使われ、平たんに整地した「曲輪(くるわ)」や防御のための段差「切岸(きりぎし)」といった遺構を確認。1400本以上の建物の柱跡や鍛冶工房跡、中国製の磁器や祭祀(さいし)用とみられるガラス玉も見つかった。
地区との協議を踏まえ、市はグスクの頂上部を保存するため計画の一部を変更した。ただ現状では他の部分の破壊は免れず、地区では議論を重ねてきた。神谷秀仁区長(42)は「念願の道路か遺跡保存か、住民の中にもいろいろな意見がある。難題だ」と頭を抱える。
造成はすでに一部で進行。23年度からは発掘した場所での工事も始まる。山肌を大きく削る形で道路が敷かれた風景に「大切なのは拝所だけではない」と戸惑いを隠せない住民がいるほか、県内の埋蔵文化財行政の関係者からは「信仰のために聖域を削っては本末転倒だ」という声が上がる。
伝承では嘉陽大主(うふしゅ)という人物が築いたとされ、謎の多いグスクの実態解明にも期待が集まる。神谷区長は「遺跡には集落の貴重な歴史が残されているが工事は迫る。立ち止まって考えようにも高齢化は進む。何か良い案はないのか」と漏らす。
沖縄考古学会は昨年11月、市側に保存や活用を求める要請文書を送った。会の事務局長を務める沖縄国際大の宮城弘樹准教授は「お参り自体を否定するわけではない。住民の思いや遺跡保存の着地点を行政にはさらに探ってほしい。遺跡は地域の振興や観光資源にもなり得る」と話した。
(共同通信)