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声上げられる社会実現を ジェンダー平等 宮城公子(沖縄大教授)<女性たち発・うちなー語らな>


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宮城公子氏

 8日の国際女性デーには、本紙もさまざまなジェンダー、つまり社会が構築する性差の概念に起因する性差別や労働環境の不平等などに言及した。朝日新聞では、日本の少子化対策としての子育て支援が、現実に多数を占める、子どものいない女性たちの支援になっていないこと、そうした単身女性の貧困化対策を政治課題にしない政権の想像力の欠如、女性登用はジェンダー的格差の問題なのに、個々の女性の能力問題に還元され、高い労働力を持ち得る中高年女性が不可視化されていることなどが、指摘されている。

 学生の頃、最も割のいいバイトは予備校講師で、友人の男子のほとんどは時に時給1万円を超える有名予備校で教えていた。自分もと思い某予備校に連絡すると、対応した職員の返答は即、「生徒は十代後半の男子が多くて若い女の先生に気が散っちゃうので採用しないんですよね」だった。

 小さな塾のバイトは2~3千円の時給が相場で、それでも他の職種よりはだいぶ高いため手を打たざるを得なかったが、納得したとは言いがたかった。それは「しょうがない」という言葉で友人たちにも片づけられた。

 このジェンダー構造の「しょうがなさ」は、特に女性にとって小さな絶望や大きな生活苦を与え続けている。また男性に過剰労働が偏ることで、本当は家族や友人たちとももっと時間を共有したい男性たちをも、結局は苦しめる。しかし日々の労働に追われる中で、そうしたジェンダーの構造を、個々人が根底から問うたり批判したりすることはなかなかできない。

 以前、某自治体の「男女共同参画委員」として地元住民を招きシンポジウムを開いた時、子育てが話題となり、高齢男性が私に、子どもはいるかと尋ねた。いないと言うと、それでは子育ての施策は作れないのではと言う。

 今ならいくらでも返せるが、40代前半だった私は言葉に詰まった。すると20代という女性が立って、子どもがいる私は普段は朝から晩まで仕事と家事育児に追われ、子育ての「問題」を考える暇がない、子がいようといまいと改善するために考える人がいたら助かる、と発言した。

 今もなかなか打破されないこの国のジェンダー構造の背後には、政治・経済、社会・文化や宗教などの手ごわい壁や岩盤が立ちはだかっている。それでも、子の有無や自己責任としての能力などという線引きで人々が分断されるのではなく、男女のみならず全ての性の人々が、あの20代の女性が届けてくれたような声のやり取りを試み続け、ジェンダーに穴をうがち続けたい。


 みやぎ・きみこ 東京大・ブラウン大修士課程修了。沖縄大教授。日本文学・比較文学・ジェンダー学・異文化理解・英語教育担当。大学の演習ではジェンダー関連を担当。共著「Southern Exposure: Modern Japanese Literature from Okinawa(沖縄近代文学アンソロジー)」「継続する植民地主義 ジェンダー/民族/人種/」他。