【識者評論】地方自治体の権利、大幅縮減する下級審の暴走 前田定孝氏(三重大准教授) 辺野古2訴訟県敗訴


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前田定孝・三重大准教授

 福岡高裁那覇支部は辺野古埋立設計変更不承認をめぐる裁判で、沖縄県を敗訴させた。是正の指示についての判決で「港湾基準・同解説が、護岸等に関する設計の手法は、必ずしも精密科学を追求したものではなく」と指摘し、県が審査する際に「港湾基準・同解説の記述する性能照査の手法等を超えてより厳格な判断を行うことは、特段の事情がない限り、法の予定するところではない」などとし、県に裁量権の範囲の逸脱・乱用があるとした。

 特に、地盤の安定性についての「調整係数」に関し、「必ずしも個別の地盤条件の不確定性を調整するための係数ではないことから、その差異を反映しなくとも適用できる旨」、および「完成時と施工時とでは安全率を別々に設定し、施工時の安全率を低く設定できる旨の内容が含まれている」と「解釈することができる」とするなどした上で、知事の不承認処分の根拠ともなった、B27地点を含む大浦湾内の各点で、調整係数mを下限である1・10と設定したことに、「特段の事情がないにも関わらず、港湾基準・同解説の記述する性能照査の手法等を超えてより厳格な判断を行うものであり、考慮すべきではない事項を過剰に考慮した」とした。

 国が示した基準よりも高いハードルを設けると違法になるとすれば、地域ごとの特性、さらには地域固有の文化や自然環境の尊重すらも認められなくなる。

 公有水面埋立法に基づく権限を法定受託事務としたのは、都道府県知事が地域特性を考慮するためではなかったのか。

 本判決は、地方自治体が住民の権利や環境を守りうる範囲を大幅に縮減しようとするものと評価せざるをえない。上告審では、最高裁がこのような下級審の暴走の是正が望まれる。
 (行政法)