県は他国からの武力攻撃事態が発生した場合に、宮古、八重山の先島地方から九州へ避難することを想定した国民保護図上訓練を初めて実施した。「台湾有事」の懸念が示される中で、台湾に近い離島から全島民を避難させるという想定には「緊張をあおる」との見方もある。一方で、県は島民の安全を確保する備えを進めつつ、独自の地域外交で紛争の回避を働き掛ける両輪の方向性に矛盾はないとしている。
県庁5階の危機管理センターで離島5市町村や国の担当者も参加して図上訓練を実施しているのと同時刻、6階の会議室では玉城デニー知事が定例会見を開いていた。このタイミングで訓練を初実施した意図があるかを問われたのに対し、「安全保障環境にこだわって図上訓練を計画したものではない」と否定した。
内閣官房によると、2026年度には国の主導で全国各地で実施している訓練に沖縄県が参加する予定だ。武力攻撃に準ずるテロなど緊急対処事態を想定し、図上訓練と実動訓練を組み合わせて国や県の対応を確認する。今回の図上訓練で分かった課題なども踏まえて、国民保護を拡充して実施する構えだ。
一方で、本土に疎開する児童らを載せた「対馬丸」が米軍に沈没された沖縄戦の記憶など、戦時下を前提とした島外避難に抵抗感を抱く人は少なくない。
県は国民保護の一義的な主体は市町村ということに加え、複雑な県民感情も踏まえ、今回の訓練では自衛隊の活用を念頭に置かなかった。県防災危機管理課の池原秀典課長は「対馬丸の事例もあるように、いわゆる(自衛隊は)軍隊であるということで逆に攻撃目標になってしまう。自衛隊の輸送力をどう活用するかは今後の検討課題だ」と配慮をうかがわせた。
中国を念頭にして南西諸島で日米の軍備増強が進むのに対し、玉城知事は常々「対話による緊張緩和」を唱えてきた。23年度には「地域外交室」を設置し、アジア太平洋地域の信頼醸成に向けた独自の施策を展開する。そうした中で有事想定の準備をするのは一見矛盾した対応にも映る。
玉城知事は「訓練は訓練だ。有事が差し迫っているからではなく、どのような連携で住民の安全を図ることができるのかという責任において行われるものだ」と述べ、県の平和政策と齟齬(そご)はないとの立場を示した。
(梅田正覚、明真南斗)