米国のPFAS飲み水基準の厳格化、日本へ波及か 化学業界反発で難航も


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 発がん性や免疫機能への悪影響が指摘される有機フッ素化合物「PFAS」の飲み水の基準を米環境保護局(EPA)が発表した。強制力がある全国統一の基準で、歓迎の声が上がる一方、化学業界などの反発や訴訟も予想される。意見募集を経て年内に確定が見込まれ、厳格さを守り切れるかどうかが焦点。日本の目標値見直しの検討にも大きく影響する。

 「何千人もの死亡と何万人もの重症疾患が防げる。誰でもきれいな水を飲み、健康な生活を送れるようになるべきだ」。リーガン長官は14日、基準発表の際に強調した。

 基準は多数あるPFASのうち主要な2種類のPFOAとPFOSそれぞれについて、飲み水1リットル当たり4ナノグラムとした。昨年までは両物質で計同70ナノグラムとする勧告値が設けられており、大幅に厳しくなった。他に4種類を一括して扱い、物質ごとの危険度を考慮しつつ総量として規制する。水道事業者には数値の公開や低減を義務付ける。

 今回の基準について、PFASに詳しいカリフォルニア大のスコット・バーテル教授は「今ある検査での検出限界に当たる」と指摘。現実的に調べられる最も厳しい値を採用した形だ。同時にEPAは、強制力のない目標として「ゼロ」も提示。「純粋に健康のことを考えるなら、安全な水準などないとの意味だ」とバーテル氏はいう。

 全体像見えず

 PFASの種類は数千以上。積極的に工業利用されるものだけで600程度に及び、今回の対象物質以外も危険性が指摘される。米内分泌学会はEPAの規制を支持する一方「PFAS全体を包括的に規制する必要もある」との声明を出した。

 ただし前途は多難だ。各地の水道事業者が新たな浄化設備を導入する費用は多額で全体像が見えず、業界などが訴訟を起こす恐れも。規制が飲み水以外の水質、工業製品や土壌の含有量へと広がることを防ぐため、議員へのロビー活動が活発化するとの見方もある。

 見直し

 規制強化は世界の潮流になりつつある。世界保健機関(WHO)は昨年9月、PFOSとPFOAそれぞれ飲み水1リットル当たり100ナノグラムとの暫定的な基準値を提案した。欧州食品安全機関は2020年、PFOSとPFOAなど4種類合計で、食品由来を含め1週間に摂取しても健康影響がない量として体重1キロ当たり4・4ナノグラムを設定した。

 欧州化学物質庁は、現在のペースでは今後30年で約440万トンのPFASが環境中に放出されると試算。類縁の物質を含め計約1万種の使用を一括して制限する規制案について検討を始めた。

 日本でも今年1月からPFOSとPFOAの水質基準見直しや、他の物質の対策に関する議論が進む。現状の水質管理の暫定目標値はPFOS、PFOA合計で1リットル当たり50ナノグラム。20年に決定した際は、同70ナノグラムという当時の米国の勧告値を参考にした。

 日本政府内では、米国の厳格化が今後の見直しの議論に直接影響するとの見方があり「米国の基準とそう懸け離れるわけにもいかない」と話す関係者も。低いレベルで検出や除去をする技術的課題などを踏まえ、検討が進むとみられる。
 (ワシントン、東京共同=井口雄一郎、服部慎也)