【島人の目】見返り求めない台湾移民


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 アルゼンチンは指折りの移民国家だ。沖縄県系人もコミュニティーを形成しているが、中華系移民の歴史も古い。
 中華系移民の歴史は三つの時期に分けられる。初期の20世紀前半は移民数がまばらで公式数字がない。

 第二波は1980年、台湾からの店主や商人移民の家族のほか、香港や中国南部海岸地方からの移民が多かった。首都北部のベルグラーノ地区に次々と台湾人移民の経営する中華料理店や東洋食品店(日本食品も含む)が開店し、現在の「ベルグラーノ地区中華街」ができた。「中華街」と言っても400メートル四方ほどで横浜中華街の足元にも及ばない。同地区は街路樹が多くよい環境にあり、高級マンションが立ち並ぶ。東京の元麻布や田園調布のような場所だ。
 1990年代に福建省から最大の中国系移民の波が始まり、「チーノ(中華系人)」はスーパー経営者の代名詞として知られるようになった。現在アルゼンチン全土で中華系スーパーは1万300店を超える。
 アルゼンチンにおける中華系移民の「光」の一方、暗い「影」もある。それは人身売買と奴隷労働だ。アルゼンチン全国紙ラ・ナシオンによると、過去5年間に殺害事件が31件起こっており、刑務所で懲役刑に服している中国人は14人もいる。現在華人社会の犯罪対処に向けアルゼンチン連邦警察は福建省警察と密接に協力しているという。
 アルゼンチン台湾系社会については、国際的に最高評価のアルゼンチン英字新聞「ブエノスアイレス・ヘラルド」紙が、2014年10月3日版で「中国人社会とはスーパーのことだけではない」という題の詳しい分析記事を掲載した。
 同紙によると、社会人類学者のルシアナ・デナルディ氏の話として「中国大陸の移民と違って台湾移民は大学卒で、不動産を購入したり、自営業を操業するために十分な資金を持ってやってくる」と指摘する。「もう一つの特徴は台湾人は通常移住を覚悟して来亜するが中国人は帰国していく」
 デナルディ氏は民族誌調査を行うために台湾人に数十人にインタビューし、アルゼンチン人と台湾人の考え方の違いを尋ねた。同氏は時間の観念の違いに着目した。例えば、アルゼンチン人の友人が力になってくれたら、その友人は見返りを期待するのは本当に短い期間であるが、台湾人は一生であるかまたは見返りを求めない、といった具合。
 私は日系アルゼンチン人(3世)だが、友情関係における「見返りを求めるか、求めないか」の問題についてはアルゼンチン人の場合、時間観念の違いのほか、家庭教育の問題もあると思う。教育レベルの低い人が多いほど幼稚な物の考え方で見返りを望む者も多くなると考える。アルゼンチンの100年にわたる衰退の深い要因はその「見返り根性」にあるに違いないと言ってよい。
 考え方の違いを知れば、日本人・沖縄人との類似点や相違点をきっかけに、日本・沖縄人としての良い点にあらためて気付くことだろう。
(大城リカルド、アルゼンチン通信員)