<書評>『ジャーナリストたち 闘う言論の再生を目指して』 本物の仕事拾い上げる力を


社会
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『ジャーナリストたち 闘う言論の再生を目指して』前田朗編著 三一書房・1870円

 「ジャーナリズムはほとんど絶滅危惧状態だ」。冒頭から編著者前田朗の指摘は手厳しい。現代のマスメディアの大半が権力の提灯(ちょうちん)持ちとなり忖度(そんたく)・翼賛しているという評価には全く同感だ。だが年々「中立」や「両論併記」に逃げ込んで事なかれ主義に流されていく大手メディアに長年身を置いていた人間としては、「闘う言論の再生を目指す」というタイトルに拍手を送る一方、活躍目覚ましいジャーナリストを数人並べたところで再生の道筋など見えるものかと、やや構えて読み始めた。

 9人のロングインタビューのトップバッターは琉球新報の新垣毅記者。沖縄2紙と言えば気炎万丈の反骨精神で他県を圧倒しているが、沖縄のジャーナリストが戦う相手は米軍や日本政府という機関だけではなく日本の植民地主義であると喝破。そう思うに至る道程が面白い。

 登場する女性4人、男性5人の立場は企業に属する記者からフリーまでさまざまだが、共通しているのは全員がマイノリティーの問題に深く関わっていること。性差別・在日・沖縄・移民・いじめ・ヘイト…。ある人は当事者として、また取材で深く関わった人間として、簡単には解決できない社会の闇に足で稼ぐ調査と言論で挑んでいく。

 差別と闘う神奈川新聞の石橋学記者は「こんな酷いことが起きています」と記事を書いて一丁あがり、と日々やり過ごしていた過去を自戒する。やがて、書いた責任に向き合い、絶望を引き受けることが社会を変えることにつながると思うようになる。

 元朝日新聞記者で企業の性差別を告発してきた竹信三恵子さんは、明るい兆しを記事に求めて来る女性たちに対し「私はジャーナリストだから、嫌なことも言わないといけない」と笑う。

 今、「ウケる」記事がまん延している。現場も歩かず裏も取らず誰でもバズる記事を発信できる。でも河口の石ころの中から翡翠(ひすい)を手繰る如く、彼らのような光る本物の仕事を拾い上げる力を私たちが持つこと。それこそが言論再生の鍵だと合点がいった。

(三上智恵・映画監督)


 まえだ・あきら 1955年北海道生まれ、東京造形大名誉教授。著書に「ヘイトスピーチ法研究序説」「憲法9条再入門」など多数。