<書評>『琉球文学大系11 琉歌〈上〉』 音楽、文学の土台深める


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『琉球文学大系11 琉歌〈上〉』波照間永吉・平良徹也・照屋理 校注 ゆまに書房・6820円

 「琉歌」という呼称は一般的に「琉球の歌」を略したものとされ、奄美諸島から先島に至る地域で詠まれてきた短詩形抒情(じょじょう)詩のことを指している。八・八・八・六音の四句形式で三十音の韻律を持つところに特徴があり、これが琉歌の基本的な詩形となっている。

 これまで琉歌集をまとめた書籍はいくつか発刊されているが、その中で最も広く普及しているのは島袋盛敏・翁長俊郎著『標音評釈 琉歌全集』であろう。節組と吟詠みの部に大別され、索引も歌詞・作者・種類別にすることができ、琉球古典音楽を専門としている筆者は歌詞の意味を参考にするほか、本歌以外の歌詞をえり抜く際に常用している。ただ、語彙(ごい)の説明が少なく訳文も分かりづらいため、入門者にとっては少々難しいものとなっている。

 本書を見ると巻頭に詳細な概説があり、琉歌に関する知識を深めることができる。琉歌集は『琉歌百控』の「乾柔節流」「独節流」「覧説流」をはじめ、『琉歌集 春の部』、山城正楽写本『琉歌集』にある口説を含む全ての琉歌が収録されている。訳文も逐語訳が採用され大変分かりやすくなっており、さらにはこれまでの琉歌集にはなかった語彙の説明が丁寧になされている。そのほかにも校異等注、初句索引、収録されている各琉歌集の解説もあり、有益な情報が多く収載されている。

 沖縄の伝統音楽である古典音楽や民謡の歌詞は、琉歌となっている。同じ曲でも歌詞を変えることもあり、時には自ら琉歌を詠み曲に乗せていく場合もある。そのため、琉歌の理解度は自らの技芸向上にも大きく影響するのである。現在、県内には琉歌に親しみ学び合う団体があるほか、行政が主催する選考会もあり毎年多くの新作が応募されている。音楽や文学を問わず伝統を重んじることは大切であるが、土台を深めながら新作への取り組みも大切である。このような両輪の活動において本書は最適なものとなっている。研究者や演奏家をはじめ、琉歌を嗜(たしな)む多くの方に実用書としてぜひ活用していただきたい。

(新垣俊道・沖縄県立芸術大准教授)


 はてるま・えいきち 1950年石垣島生まれ、名桜大大学院教授、「琉球文学大系」編集刊行委員会委員長。

 たいら・てつや 1951年那覇市生まれ、沖縄県立芸大芸術文化研究所共同研究員。

 てるや・まこと 1975年南城市生まれ、名桜大上級准教授、「琉球文学大系」編集刊行委員会副委員長。