継いでゆくもの 磯崎主佳(美術教師・絵本作家)<未来へいっぽにほ>


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磯崎主佳(美術教師・絵本画家)

 新年度が始まり、学校は子どもたちの声で活気に満ちる季節です。私は美術教諭として働く一方で、沖縄戦の体験者の方々と戦争を語り継ぐ絵本を作り続けています。ここ数年、お世話になった体験者の方々の訃報が続きました。元白梅学徒の中山きくさんも、その一人でした。

 訃報を受けたあの日、ご遺体として眠るきくさんは、家族に囲まれて安らかでした。いつも体験者の中心として凜(りん)と立つ姿を見てきた分、家族のそばで横たわる穏やかな姿がとても印象的でした。

 きくさんは入院中、お世話になる看護師さんたちに、絵本「白梅学徒隊 きくさんの沖縄戦」を手渡していたそうです。身体がつらい時でさえ伝えようとしたのだと切なくなるのと同時に、語れなくても思いを託せる絵本を一緒に作っていてよかったと思いました。

 きくさんは戦争を生き残ったことに罪悪感を抱き、重い責任を背負い、発言し、歩み続けたのだと思います。きくさん、もうその重荷を下ろしてください。私はきくさんの苦しみや悲しみを全て受け止めきれたかは分かりません。でも私だけでなく、多くの人が、きくさんの背負ったものから学び、教えを受けました。これから皆が自分なりの価値あるものに変えて、次の世代に繋(つな)ぎます。それはもはや重荷ではなく、恩恵であり宝物です。

 だから、きくさん、天国に行ったら先に逝った友人たちに胸を張って報告して下さい。私はやりきったと。体力の限り語れるだけ語り続けた、語り継ぐ後継者も育てたわ、と誇らしく伝えて下さい。きっと皆さん労ってくれますね。ありがとうございました。