<書評>『観光コースでない沖縄 第5版』 自分の目で見て考えて


社会
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『観光コースでない沖縄 第5版』新崎盛暉ほか著 高文研・2640円

 1981年、高文研と沖縄大学が共催して「沖縄セミナー」という教育セミナーが始まった。その際に1日だけ沖縄の基地戦跡を案内して歩いた。本土から参加した私立高校の教員たちから、次年度は「基地戦跡めぐり」をメインとして取り組んでほしいとの要望があった。

 これが、本土からの平和学習の修学旅行が定着するきっかけとなった。「平和教育」と言えば、中高校生は広島か長崎へ行くということが定番だったが、日本軍による住民虐殺の事実が残る沖縄戦を学ぶことが日本人として大事だという提起が教研集会などで行われた。

 沖縄大学は、10年間その受け入れを担当し、私自身も毎年の基地戦跡案内を楽しみとした。

 修学旅行生の事前学習の教材が必要となり「観光コースでない沖縄」が使われ、高校生版とも言うべき「沖縄修学旅行」が学校単位で買われた。

 ところが、公立学校が平和学習に当たって、「日本軍による住民虐殺を教えるためにガマといわれる洞窟に入れてはならない」「米軍基地を見せて安保を語ってはならない」という教育委員会を通しての圧力がかかった。中でも、平和教育を取り組む教師たちを偏向教育として裁判に訴える教育委員会や保護者たちが出てきた。1980年代の君が代・日の丸の強制と軌を一にして教師たちの熱意も冷え込んでいった。2001年の9・11テロで、「危険な沖縄」への修学旅行は大半がキャンセルとなった。

 最近の新型コロナで、ほぼ壊滅したといって良いだろう。

 改訂は、従来と同じ編集コンセプトで、その内容をより深めたものと言える。ジャーナリストが担当している基地問題では南西諸島のミサイル配備など大軍拡も取り上げているし、宮古・八重山からは地元の研究者が直接執筆してくれている。沖縄県民はふたたび戦場化され日本から捨て石にされるという危惧を抱いている。平和教育は戻らない。この本を持って、沖縄の辺野古などを歩いて自分の目で見て考えていただきたい。

(村上有慶・戦争遺跡保存全国ネットワーク元共同代表)


 「観光コースでない沖縄 第5版」は県内の学者やマスコミ関係者ら9氏が執筆。同名のタイトルで1983年に初版を発行。そのあと89年、97年、2008年に第4版まで刊行された。

 

新崎盛暉/諸見里道浩/謝花直美/松元剛/島袋良太/前泊博盛/亀山統一/仲宗根将二/大田静男著
四六判 336頁

¥2,640(税込)