罪を犯して親が刑務所にいる子どもに正しい情報を伝え、不安を和らげる助けにしてほしいと、琉大法科大学院の矢野恵美教授らが、受刑中の生活をまとめた冊子を作った。法務省矯正局によると、こうした子ども向け冊子は珍しい。3月からはウェブで無料公開を開始。矢野教授は、日本では受刑者の子どもへの配慮が不十分だとし「どんな状況でも、子どもは等しく尊重されるべきだ。家族について知りたいと思った時、活用してもらえたら」と話した。
冊子は14ページで、タイトルは「はなれている家族のことを知りたい子どもたちへ」。手に取りやすいよう、刑務所や犯罪という単語はあえて使わなかった。矢野教授が呼び掛け、琉大法科大学院の齋藤実教授、愛知大(作成時は岐阜大)の立石直子教授、関西福祉科学大の松村歌子教授の4人で作成した。
イラストを多用し、部屋着や作業着などの服装も含めて生活ぶりを紹介。起床から就寝までの一日のタイムスケジュールや、再犯をしないために学んだり、職業訓練や仕事探しをしたりする様子も説明した。提供される食事の献立も盛り込むなど、矯正局の協力も得て、刑務所の中の生活を具体的に伝えている。
多様性を意識し、子どもたちは肌や髪の色、性別をぼかした。性別による役割意識にとらわれないよう、受刑者については洗濯をする男性、ハンマーを使って生産作業をする女性を描くなど、細部まで工夫を凝らした。
冊子作成の必要性を強く意識したのは、10年以上前。スウェーデンでは2007年に刑務所にいる親に面会に行くという設定の冊子が作られた。国連で採択された「子どもの権利条約」を、日本は1994年に批准したものの、日本は子どもへの配慮が行き届いていないと以前から感じていたという。
親の受刑を知らず、連絡が取れずに不安定になる子。学校などでいじめに遭う子―。矢野教授は「親の受刑を知らない子も多いが、親の犯罪で苦しむ子も多い」と指摘する。無理に知らせる必要は全くないと強調した上で「刑務所への誤解も多い。知りたいと思った時に説明に使えるものがあればと思った。まずは社会全体に、こういう子どもたちがいると知ってもらいたい」と願う。
矯正局は「有意義な取り組みと認識しており、必要としている子どもにできるだけ届いてほしい」とした。
1万部作成し、全国の刑務所、少年院、少年鑑別所、保護観察所、更生保護施設などに配布。関係機関から希望があれば送付もする。子ども向けに作ったが、福祉関係者などから「知らなかった」との反響もある。矢野教授は「子どもだけでなく、周りの大人たち、出所した親に関わる人たちにも読んでもらえたら」と話した。無料ダウンロードは以下から。http://www.bestinterests-emun.com
(前森智香子)