【深掘り】本格化する「宿泊税」議論 新たな財源で観光振興…「早すぎる」の声も


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 新型コロナウイルス対策の緩和を受けて、市町村による「宿泊税」導入に向けた議論が本格化している。導入を検討する市町村は、税収増によって、魅力ある観光地の形成や、環境保全などを推進したい考えだ。北谷町や本部町、恩納村は徴収額や導入時期などについて連携する構えで、こうした動きは他市町村にも広がる可能性もある。

 ただ、観光客らへの負担感に加え、事業者側にも作業負担が生じるとの懸念も上がる。コロナ禍でホテル事業者が導入に強く反対した経緯もある。

新たな財源

 条例制定による目的外税となる「宿泊税」の導入は、コロナ禍前までの訪日外国人客(インバウンド)の増加などに伴い、地方の新たな財源として、全国的に注目を集めていた。県も部長級で構成する「法定外目的税制協議会」で、宿泊税のほか、入域税やレンタカー税の導入が検討された。そのうち、制度設計がしやすく、使途も分かりやすい宿泊税の導入が有力視され、議論が進んできた。

 一方、コロナ禍の22年、宿泊業団体は「現下において宿泊者減少への影響が懸念される宿泊税導入については慎重になるべき」とする抗議文を県に提出した。コロナ禍で痛んだ経営基盤の改善が急務だとし、宿泊税導入の議論が早すぎるとする意見も根強い。

「時期尚早」

 県ホテル旅館生活衛生同業組合の宮里一郎理事長は将来的な導入には賛成するが、早期導入を進めることを疑問視する。「(導入している)九州のケースを見ても、ホテル業界への還元がみられない。人員も足りない中で、さらなる業務負担につながってしまう」。

 県ホテル協会の平良朝敬会長は「3年間コロナで痛手を受け、40年分の利益が飛んでしまった事実がある。議論すること自体早すぎる」として、税導入に向けた県の動きをけん制した。従業員の作業量増加や、業界団体への「還元」をどうするのかなど、事業者側との調整も必要となる。

鍵は意見集約

 宿泊税の導入によって、北谷町や宮古島市の試算では年間1億円以上の増収につながるとの見通しも示されている。自治体からは「貴重な自主財源となる」との意見も相次ぐ。

 導入を検討する、ある自治体の担当者は「持続的な観光の発展に向けて財源を確保でき、魅力発信や利便性向上につなげられる」と期待を込める。

 県は市町村が宿泊税を設ける場合、徴収額の半額を県の分、残りを市町村分とする「素案」も作成している。今後、市町村と話し合いを進めるが、県と市町村が二重に課税され、宿泊客の負担が増加しないような措置を検討する考えだ。

 一方、オーバーツーリズムなどを見込んで、竹富町は西表島を訪れる観光客へ「訪問税」を徴収する方向で調整している。他の離島市町村でもすでに「入域税」を徴収している市町村もある。県全体で「宿泊税」を課税した場合に、離島を訪れる観光客の負担感が増すとの懸念もある。

 県は24年の県議会11月定例会に提案する方向で、観光事業者との意見交換を本年度から順次進めている。条例化に向けては、事業者や市町村の意見を丁寧に吸い上げた制度設計にできるのかが鍵を握りそうだ。

(池田哲平、與那覇智早)